他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

スワンプロックとは?トニー・ジョー・ホワイトによる究極の回答。

スワンプロックとはなんなのか。
ひとによって解釈が違っており、ややこしい。


米国南部ロックをひとくくりにスワンプロックと記載する人もいる。
では南部ロックとスワンプロックはなにがちがうのか?
どうも釈然としない。
そこでスワンプロックとは、を決定づけるトニージョーホワイトの回答をあらためてみてみよう。



キング オブ スワンプロック Tony Joe Whiteはかつてスワンプロックの真髄を語っている。
「スワンプロックとはルイジアナエリアに住む人々、彼らの生活や人生を描いたものであり、河のにおい、ワニのことなどを描いたもの。それが世界に広がったんだ。だからスワンプ地帯に暮らさないで、そういう音楽をやるというのが自分には理解できないな。」


日本人は米国の文化背景、それこそ南部の風習や伝統まで知るひとは少ないのに、米国南部音楽が好きなひとは多く、必然的にその曲調やサウンド、演奏でしかジャンル分けができない。
しかしその歌われている内容や演者本人がスワンプ地帯出身者がどうかまでをふくめて、スワンプロックなのだ、というのは感銘を受けた。
いわばゴスペルとおなじ考え方だ。主への敬愛を歌ってはじめて
ゴスペルであり、歌詞がただの恋愛についてしか歌っていないなら、
それは曲がゴスペル調なだけで、純然たるゴスペルとは言えないだろう。

だからTony Joeのスワンプロックはほかのスワンプロックと比べて 異端に感じたものだった。
極端な表現だが、一般的にスワンプロックと言われる音楽はゴスペルっぽかったり、R&Bやカントリー風だったりブルーズっぽかったりするのが多いとおもう。
だからこそ南部ロックとスワンプロックの併記が多くなったのだろう。

ところがスワンプエリアの日常をその出身者が歌うTony Joeの場合は曲調がどうこうではなく、そのサウンドからスワンプ地帯の河の色や、湿地帯の湿度やワニが想起できるか、また歌詞に南部の人々の風俗や会話を見いだせるかということなのだ。
米国南部を知らないわたしは、だからこそTony Joeのスワンプロックにとまどった。
デルタ ブルーズとひなびたフォークが混ざったようなモニュメント期の3枚のレコードは今となっては愛聴盤だが、はじめて聴いたときはどこがスワンプなんだろう、と思っていた。
南部ロックだとはおもうが、スワンプロックか?と。
彼のセカンドアルバムはホーンが効いた曲もあり、メンフィスソウルとなにがちがうんだ?と疑問だった。
それはわたしがサウンドや演奏、曲調でしか判断しておらず、それまでスワンプロックとして認識していた曲調と違いすぎたからだった。

Tony Joeは自身の音楽をブルーズと言っている。
要はブルーズ色が強かろうが、カントリーに近かろうが、そんなことは
関係なく、スワンプエリアの日常がそこに歌われていれば スワンプロックなのだ。
そもそもスワンプロックという呼び名は、Tony Joeの
シングル「 ソウル フランシスコ」がフランスでヒットした際、フランスのメディアがTony Joeがスワンプ地帯出身ということから名付けただけのものであり、厳密に音楽性やサウンドを分析して名付けたものではない。南部ロックと呼んでも問題はなかっただろう。
メディア受けする響きだからスワンプロックという言葉を採用したにすぎないと推測する。
ただ、その呼び名を自身の音楽ブランドとして発展、確立させ、世界に伝搬するに至ったTony Joeのスワンプロックの定義はだからこそ究極のものと思えるのである。


Tony Joe White Smoke From The Chimney
死後に発表されたすばらしき一作。
名盤Homemade Icecreamを彷彿とさせるスワンプロックアルバムだ。沁みる南部バラッドから泥臭くファンキーな曲までスワンプロックがこの1枚にダイジェストされている。


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2023 2 23加筆