他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

トニー・ジョー・ホワイト | ザ・ビギニングのリマスター盤ガイド

トニージョーホワイト2001年作「THE BEGINNING 」がリイシューされた。
リマスターが施され、1曲をカットし曲順、およびジャケットも変更している。
ファン泣かせだが、旧盤が廃盤なだけに手にしていなかったひとには嬉しいリイシューだろう。
 
本作はトニージョーホワイトのアコースティックギター、ヴォーカル、ハーモニカのみのアコースティック スワンプ アルバムだ。
よく弾き語りアルバムと書いているひとがいるが、リードギターを重ねていたり、純然たる弾き語りではない。
演奏は自身のみという完全ソロアルバムであり、弾き語りに近い雰囲気のアルバムと言うのが正解だ。
 
旧盤は音質がかなりロウ&ドライで、その質感はカセットテープ的に感じたものだ。
それもあってかデモトラックを集めたアルバムのようでもあった。それはそれで魅力だったが。
今回はリマスターで音質がマイルドになり、聴きやすくなった。
また曲順を変更したことで構成が改善されて、アルバムらしさが増した印象だ。
ジャケットのトニージョーホワイトの姿も気取りがなく、まさに等身大のアルバムであることを気づかせてくれる。

 

収録曲のうちいくつかはのちのアルバムで再録されたり、ライヴでの定番ナンバーになったがなかでも⑧はこれぞアコースティック スワンプと呼びたくなる質感だ。
2006年のアルバム「UNCOVERED 」ではバンド編成で再録されるが、音を加えすぎてスワンプな空気感が薄れてしまっていた。
本作では少ない音でシンプルに演奏されているのだが、これがスワンプロックの空気が充満した仕上がり。
密林感、獣の咆哮、河の匂い、ワニなどトニージョーの言うスワンプの要素が音から声から伝わってくる。
こういう曲を演奏したときのトニージョーホワイトの存在感は実に魅力的だ。
①や⑨での地を這うような毒ヘビヴォイスも最高にダーティー
一転して⑤⑦では哀切でセクシーなヴォーカルを聴かせる。
やはりトニージョーはワン アンド オンリーのこの声の魔力である。
 
 
本作ではブルースをベースに鋭角的な曲から、メロディックな曲、哀愁あふれる曲がならんでいる。
メロディ楽器はギターだけなのでトニージョーのリックが存分に楽しめる。
 
 
またこのアルバムは③④⑧⑩など歌詞も自身の心の内をうたったものが多い。
トニージョーのスワンプロッカーとしての面だけでなく、シンガーソングライター的な繊細さもあらわれている作品だ。
 
こうした点も本作がトニージョーホワイトがひとりでつくりあげたソロアルバムという趣きを強めている。
 
本作からトニージョーの快進撃がはじまるわけであり、まさにはじまりなのだ。
 
 
 
The Beginningに至るまで。
本作がリリースされるまでの流れをみていくとタイトルの意味合いも理解できるので記しておこうとおもう。
 
モニュメントレコードからデヴューしたトニージョーホワイト。
70年にワーナーミュージックに移籍し、3枚のアルバムを発表するが、その後レコード会社を転々とし、ぽつぽつとアルバムを置いていく。
もとよりスワンプロックというのは売れ線のジャンルでもなく、時代の変遷とともにあっという間に変わっていく音楽業界のなかで苦心したのかもしれない。
 
そして83年に「DANGEROUS」を発表してからアルバムの発表が途絶えてしまう。
ワーナー在籍時のトニージョーの作品は自らのスワンプロックをより発展させたものだったが、それ以降は時代の流行を意識したものになっていた。
ディスコであったり、都会的なAORサウンドやバリー ホワイト的な要素を取り入れていたのだが、トニージョーのファンの多くはそうした作風、サウンドには否定的であったようだ。
それは今日でも変わっていないと感じるが。
 
結果としてトニージョーはアルバム制作からは距離をとり、ライヴや楽曲提供などの活動をしていたようだ。もしくはレコード会社との契約を取れなかったのかもしれない。
 
 
そうした中で89年にティナ ターナーのアルバム「Foreign Affair 」に数曲を提供。
演奏とプロデュースでも参加し、これが好評を得たのだった。
この成功が起点となったのかフランスのレーベルRemarkと契約し、3枚のアルバムを発表するに至る。
ここでのトニージョーはヨーロッパナイズされた米国南部ロックを展開。
ヨーロッパ3部作ともいえる仕上がりだ。
この時期のドイツでのライヴがDVDにもなっている。
 
98年になるとアルバム「ONE HOT JULY」をMERCURY/TUPELOから発表。ヨーロッパナイズされたサウンドを少し残してはいるものの、かなり米国南部サウンドを取り戻し、トニージョー本来のサウンドが戻ってきているのがはっきりとわかる。
 
 
そして2001年に本作「THE BEGINNING」を自らのレーベルSWAMP RECORDSからリリースするのだ。
ワーナーミュージックを出てからの曲折を断ち切り、再出発ではなく、これが自分にとってのはじまりなのだ、という強い意志のあらわれだと受け取れる。
世間の流行りなんぞ知ったことじゃない、といわんばかりのアコースティック スワンプ。
 
売れ線であろうがなかろうがこれが自分の音楽だ、という表明であり、長い年月のなかでトニージョーホワイトがみつけた答えがここにあるのだ。
 
トニージョーホワイトの真骨頂、クールでロンサム、時代に流されないスタイリッシュなスワンプ ロックである。
 
トニー・ジョー・ホワイト/ ザ・ビギニング

リマスター盤

1

 

Who You Gonna Hoo-Doo Now

2   Ice Cream Man
3   Wonder Why I Feel So Bad
4   Going Back To Bed
5   Down By The Border
6   More To This Than That
7   Drifter
8   Rebellion
9   Rich Woman Blues
10   Raining On My Life
 
 
 

 

こちらは旧盤ジャケと曲目

1   Rich Woman Blues  
2   Raining On My Life  
3   Ice Cream Man  
4   Going Back To Bed  
5   Drifter  
6   More To This Than That  
7   Down By The Border  
8   Wonder Why I Feel So Bad  
9   Clovis Green  
10   Rebellion  
11   Who You Gonna Hoo-Doo Now