他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ビートルズ ベスト盤の選び方 赤盤・青盤・1の決定的な違い

2023年11月:「赤盤・青盤の新装版について」「はじめてビートルズを聴くなら」をページ下部に追記。

ビートルズのすばらしいところはいくつもあるわけだけれど、わたしが注目するのはベスト盤の少なさだ。これはなにを物語るのか。

あれほどのバンドであれば数年に一度新たなベスト盤を出すのが通例。

ローリングストーンズやビリー ジョエル、ボブ ディランなどがまさにそうであるし、それこそジョン レノンも発売されたベストは何枚も存在する。

ベスト盤が多いというのはそれだけ出すたびに売れるという証左であるし、時代ごとに新たなベストを出すことで若い世代にも聴く機会を提供することにもなるかもしれない。

 

一方で長く音楽ファンでいると、リリース情報が出たと沸き立てばまたベスト盤か、と思い曲目を見て前のベストとそう変わらない、と興味が薄れ、結果リマスター効果の違いが売りになるものの、果たしてそこまでのリマスターになっているのか疑問を覚え、なかなか素直に手が伸びない。

あとで買おうとしたころにはもう販売が終了しており、結局このバンドの入門にはこの1枚、といえるほどの決定的ベスト盤にはなりえなかったことが明確になる。そもそも決定的なベスト盤をつくるということは易々とできることではなく、ある期間を過ぎれば廃盤となるのは当然かもしれない。

またキャリアが長いミュージシャンになるとオールタイムベストが編纂されるようになるが、3枚組以上になることが多く、それはベスト盤というよりもはやアンソロジーだ。

はじめてそのバンドを聴いてみようとする人に3枚組はやや重い。

やはりベスト盤は最大2枚組までにしないと興醒めする。

選りすぐるからベスト盤なのであり、枚数を多くしてあれもこれもと詰め込むと無粋なのだ。

ベスト盤はあの曲も入っていればよかったのにという腹八分目が必要だ。

入っていない曲を聴くにはオリジナルアルバムなど他の作品を聴くことになり、そもそもベスト盤の大きな意義はそこにある。

あくまで扉なのだ。

 

一方でマニアックな選曲をみせるベスト盤もあるがこの編纂には相当なセンス、それも構成のセンスが必要で、半端に隠れた名曲を入れてしまうと有名曲やヒット曲との釣り合いがとれなくなる。

また隠れた名曲を多くすると地味さが際立ち、ベスト盤としてのコマーシャルな要素が減衰する。

コマーシャルな要素を強めるために初CD化曲やレア曲の収録を売りにするベスト盤も多いが、そうした曲を収録する意味合いがベスト盤という形態から外れていることがほとんどである。こうした楽曲はレア曲を集めたコンピレーション盤に収録するのが本来ならば望ましい。

ベストに入れるならそれだけいい曲であるか、シングルヒットであるか、そのミュージシャンを代表するクリエイティブな楽曲であるか、という観点が必要なはずである。

 

 

こう考えると理想のベスト盤とは、枚数では1〜2枚組まで、曲目は奇をてらわずに代表的なものに限定し、ベスト盤という性質上、そのミュージシャンもしくはバンドのイメージを象徴的にあらわしたジャケットアートを持つものということになる。

ここでビートルズのベスト盤の種類を挙げてみよう。

「赤盤 」「青盤」と呼ばれる2枚組のコンピレーションとチャート1位を記録したシングルのみを収録した「1」というコンピレーションがそれに当たる。

赤盤、青盤はそれぞれ2枚組で、93年リマスタリング音源と2009年リマスタリング音源版がある。

 

「1」は1枚もの。ただしDVDかブルーレイが付属した2枚組、および3枚組がある。

また音質もマスターが数種類存在する。

まず2000年初リリース時の24bitリマスタリング音源盤1枚もの

2011年リリースの2009年リマスタリング音源使用盤の1枚もの

2015年リリースの新たなステレオミックスを施した1枚もの

これにミュージックビデオのブルーレイ、もしくはDVDを付けた2枚組仕様のもの

(このミュージックビデオ単体でブルーレイ、DVD発売もしている)

更に上の2015ミックスCDにミュージックビデオのブルーレイを2枚組み、もしくはDVDを2枚組にした計3枚組仕様の「1+」

このブルーレイ、もしくはDVDの2枚目にあたるものは「1+」のみの付属で単体発売はされていないようである。

 

バージョンがありすぎでややこしいが、リマスターの年代を度外視すると一般的にビートルズのベストにあたるのは赤盤、青盤、1。

これだけである。

では赤盤・青盤、そして「1」の違いを見ていこう。

 

赤盤と青盤はメンバーであったジョージ ハリスンが選曲に関わった、もしくは選曲したと伝えられるもので、1973年に発表されたベストセラー。(当時の会計士であったアラン クレイン選曲説もあり、事実ははっきりしていない。だが、アランが選曲したとしてもメンバーに確認は取るはずで、そこにジョージが関与したかもしれない。そもそもアラン クレインにあのような選曲の妙が体現できただろうか疑問である。実に音楽的な選び方だからだ。ジョージ ハリスン選曲説がいまだに真実味を持つのはこうしたところからだろう。)

1993年にはデジタルリマスタリングを施してCD化され、2010年には2009年リマスタリング音源を使用して新たにリリースされた。

前者はビートルズのプロデューサーであったジョージ マーティンによるリマスタリングでオリジナルLP盤とは音の定位が異なるなど違いもあるが、さすがはビートルズと共にロックを創り上げたプロデューサー。

デジタル臭くなく、ビートルズがいた時代を感じさせてくれるすばらしきリマスタリングだ。90年代リマスターは捨てたものじゃない。

対して2009年リマスタリングアビーロードスタジオのエンジニアチームが4年がかりで全オリジナルアルバムをリマスタリングし、その音源を使用したもの。

アナログ感の再現を重視した仕上がりだ。

 

尚、赤盤は初期から中期の半ばまで、青盤は中期の後半から後期の楽曲という形で分けられているのだが、

シングルA面曲を軸にして、そこにシングルB面曲、アルバムにしか収録されていない曲を配置している。

特筆すべきはシングルB面曲とアルバム収録曲の選び方で、バンドにとってエポックメイキングとなった作品をしっかり選んでいる点だ。

それらを時系列でならべたこのコンピレーションはベスト盤とアンソロジーのハーフのような作品集で、その実大変ユニークな盤となっている。

ベスト盤もただのよせ集めではなく、創意工夫に満ちたものに仕上げた、これが実にビートルズらしいと感じるところ。

これを聴けばビートルズのすごさと歩みがダイジェストでわかるのだ。

だからオリジナルアルバムへも自然と入っていけるのである。

ちなみにジョージ ハリスン選曲説が事実ならこれはジョージから見たビートルズということでもあり、一層興味深いものになる。

 

赤盤は初期ビートルズのセピア色のジャケットアート、若き4人がビルの吹き抜けから地階を笑顔で見下ろす1枚が採用されている。

青盤は同じ画角でバンド後期の4人が地階を見下ろすアートで合わせているのも粋だ。

なによりこの選曲にしてこのアートをみるとこれがビートルズだ!!という確信が聴き手の中に生まれる。

 

対して「1」は英国か米国で1位になったシングル曲のみを収録したもの。

でかでかと1とだけ書かれた「1」のジャケットアートは味気なく、他のミュージシャンやバンドとの決定的な差別化にはおよんでいない。

またビートルズ「1」はあれだけ多くの曲を1位に送り込んだという事実に感嘆するものである反面、実はベスト盤とは言い難い。

それはStrawberry Fields ForeverやA Day In The Life、I Am The Walrusのようなビートルズによるロックの革新の最高峰と言える楽曲が収録されていないことによるものだ。

1位になった曲を集めただけで、工夫は必要としない、あくまで企画盤なのであり、ビートルズの歩み、ロックの革新を共に認めるような楽しみには欠けるのである。

そのためビートルズの凄さは、やや感じにくいものであると言わざるを得ない。

つまり「1」はあくまでビートルズのヒット曲を聴きたいひと向けのものであり、ビートルズを知りたいひと向けではないのだ。

だから初期・中期・後期のビートルズの主だったヒット曲を1枚で聴きたいというひとは「1」の方がいいだろう。

これが「1」のメリットだ。

もしくはビートルズのミュージックビデオに興味があるひと。このタイプは「1」のミュージックビデオ付きから入るのもメリットがある。

ただし2015年リリースの「1」は2015ニューミックス。オリジナルミックスではないので注意。

オリジナルミックスの「1」が聴きたいなら買い間違えのないように。ジャケットがほぼ同じだからほんとにややこしい。

ちなみに「1」に収録されている曲はすべて赤盤・青盤にも収録されている。

 

ところで赤盤、青盤のCD化は93年だったが、レノンが亡くなったのは80年。

今こうして見るとレノンの死は赤盤、青盤リリース時から13年前。

おもったより近い時期の出来事だったのだと気づく。

いまやジョージ ハリスン、ジョージ マーティンも永遠の人となった。

赤盤と青盤がメンバー4人が存命した73年にリリースされたものであることにも大きな意味があることは言うまでもない。

時はいつだって流れているのだ。

 

赤盤と青盤はビートルズのインスタント博物館のようなもので、何年もビートルズを聴いている人が聴きかえしても鑑賞に耐えうる。

ここにはジョン ポール ジョージ リンゴに出会うときめきがあり、かれらと友達になったような親密さがあり、自分もバンドの一員になったような胸の高鳴りがある。

これこそ赤盤・青盤の魅力であり、ここにビートルズの新しいベスト盤が出ない理由がある。

 

もしビートルズに興味があるが、どれから聴こうか迷っているひとには赤盤と青盤から聴くことを提案したい。自分なりのビートルズの魅力、凄さを感じ取れるはずだ。

「1」はあとから聴いた方がその音質の違いも含めて楽しめる作品だと感じる。

2015年版の「1」も然り。

 

赤盤のジャケットアートを今一度ご覧になってほしい。

4人があなたに声をかけている。

あなたが見上げるのを笑顔で待っている。

その声はあなたにしか聴こえない。

そしてその声が聴こえたら。

あなたはビートルズに出会ったということなのだ。

あとはただ扉を開けさえすればいいのだ。

2023 11月追記 新装赤盤・青盤と商品別リンクまとめ

新装赤盤・青盤について

最後の新曲NOW AND THENのリリースと共に赤盤、青盤の新装版もリリースされるビートルズ
新たなオールタイムベストを組むのではなく、旧来の赤盤・青盤を下敷きに収録曲を追加し、更にニューミックス音源を採用した拡大盤をリリースするというわけである。
 
注目点は既発の新装アビイロードや新装ホワイトアルバム、新装リヴォルヴァー、そして2015年盤のビートルズ1などジャイルズ・マーティンとサム・オケルによって制作されたニューミックス、ニューリマスタリング音源と今回新たにニューミックス、ニューリマスタリングが制作される追加収録曲を並べる中で全体的なマスタリングをどう調整するのかというところだ。
 
赤盤はほとんど2023ミックスが採用されるが、どの曲のサウンドを中心に置くのか。
初期と中期でビートルズサウンドはもちろん楽曲の方向性もかなり変わるからだ。
 
また青盤の場合は2023ミックスと既発のニューミックスが混在する中で、最後は11月にリリースされたばかりのNOW AND THENでおわる。
こちらもどのサウンドに全体を合わせるのか。
曲によっては既発版のニューミックスも印象がガラリと変わる可能性もある。
 
このマスタリングの如何が新装赤盤・青盤の評価を決定づける最重要ポイントになるんではないか。
そしてジョージ・マーティンが上手かったのはまさにこうした調整力。
ジャイルズの手腕が今回で真に試されることになる。
 
収録曲を多くすることがメリットになるか、それとも旧盤の選曲のほうが良かったとなるのか。
CDでは追加曲が旧盤の曲順の中に新たに加わる形だが、レコードでは追加曲は最後の盤にまとめて収録され、ボーナストラック集のような感がある。
聴き手側の印象の変化がどうなるかも興味深い新装赤盤・青盤である。
 
 
 
今回の新装赤盤・青盤の発売ではじめてビートルズを聴くなら
 
新装赤盤・青盤に加えてオリジナルアルバム(2009年リマスター盤)を1枚同時購入してみることをおすすめ。
これならオリジナルアルバムの方でビートルズのオリジナルサウンドも楽しめるし、ニューミックスの質感との比較もできるから両方をフォローできる。
 
 
商品ページリンク まとめ
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The Beatles/Beatles: 1967-1970 (2023 Edition)

 

輸入盤 赤盤

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The Beatles/Beatles: 1967-1970 (2023 Edition)