他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ビートルズのすごさをライヴ・アット・ザ・BBCで解説。

ビートルズのデビュー前のエピソードにはドラマがいっぱいだ。

母に教わったバンジョーのコードでロックンロールを歌うジョンが教会のバザーでポールと出会いバンドに誘う、ドイツ巡業に出るも極貧生活を経験、メンバーでありジョン レノンの友人だったスチュアート サトクリフの急逝、

オーディションにはひっかからず、成功を夢見る街のバンド。

ビートルズにときめきを感じるのはかれら自身がいつの時代にも存在する若さと希望だけを頼りに強烈に夢を見る若者たちのひとりだったからにほかならない。

かれらは音楽エリートでも優等生でもなんでもなく、レコード会社に門前払いされ、オーディションで蹴られたよくいるバンドのひとつだった。

そんなかれらがひょんなことからレコード契約をものにし、世界を変える。

まさに夢物語のようなはなしを現実に起こしたからこそビートルズはいまも世界を魅力する。

 

ビートルズの専任マネージャーとなったブライアン エプスタインがはじめてビートルズを観たときのエピソードは実に興味深い。

かれもまたひょんなことから地元のバンド、ビートルズを観に行くのだ。このときのかれらはレコード契約を持っておらず、デビューを目指していた地元バンドに過ぎなかった。

薄暗く、タバコの煙がもうもうと充満する薄汚いクラブで演奏するビートルズを観たときに、レコード店を経営するエプスタインは音楽的な魅力は感じなかったという。

ただ狭いステージで演奏しているメンバーのはじける若さとかれらに熱狂する若い観客の姿に魅了され、マネージャー就任のはなしを持ちかけるのだ。

 

レコード契約を取れないバンドはデッカオーディションにも落とされ、エプスタインは最終手段としてEMIにテープを持ち込み、それを当時大して名のないプロデューサーであったジョージ マーティンが聴くことになった。

クラシック畑のマーティンはテープに感銘は受けなかったがとりあえずオーディションは行うことにして、その結果ビートルズはEMIのレコード契約を得る。

とはいえマーティンもまた、ビートルズのオーディションでの演奏にとりたてて良い感想は持たず、ビートルズと契約したのはかれらが気のいい若者であったこと、そしてかれらのユーモアが気に入ったから、であった。

当時マーティンはレコードのプロデュースでヒットを放ったあとだったのでレコード会社からのひとつのご褒美の形としてデビューさせたいバンドがいると持ちかけたという話しもある。

もしかれらが売れなかったとしても、大物プロデューサーでもない自分に対してそこまで咎めもあるまい、との算段もあったというのだから、合格させるべきか落とすべきか判断がつかないのでとりあえず合格にした、という印象が強い。

だが捨て切らなかったということは、どこかにひっかかりを感じたのだろう。

そしてドラマーのピート・ベストでは務まらないと判断し、違うドラマーを加入させるか、デビューを諦めるかの選択をメンバーに伝え、結果リンゴ・スターが加入することになる。

 

こうしたエピソードからわかるのは、ビートルズの根本的魅力に勘づいたのは実にエプスタインとジョージ マーティンのふたりだけだったという事実だ。

両者ともロックンロールには縁遠く、ビートルズの演奏に音楽的魅力を見出さなかった点で共通しており、だからこそ根本の魅力の部分に第六感が反応したのかもしれない。

 

このビートルズを見抜いたエピソードにはエルヴィス プレスリーがオーディションに合格したときのはなしと共通するものがあり、時代を変えるほどの新しさというものは、その最初期の時点では、はっきりとした形をなしていないことがよくわかる。

エルヴィスもオーディションに正面切って合格したのではなく、保留されたのちに再度オーディションされ、それでもぱっとしない印象だった結果、とりあえず合格という形でデビューするのである。

 

だからこそ見る目、感知する力が必要ということなのだろうが、このふたりがいなければビートルズはデビューしていなかったかもしれないわけで、ブライアン エプスタインとジョージ マーティンの慧眼が後のロックをつくったと言っても決して大袈裟ではない。

 

そんなエプスタインが見たビートルズの輝く若さ、マーティンが魅力されたユーモアを追体験できるのがライヴ アット ザ BBCである。

デビュー後のビートルズは通常のライヴ以外にBBCでのスタジオライヴをかなりの数レコーディングしており、その音源から抜粋した2枚組がライヴ アット ザ BBCというわけである。

94年にジョージ マーティンのプロデュースでリリースされ大ヒットを記録。

赤盤、青盤に続いてのCD化で、世界規模のビートルズブームをさらなるものに押し上げたのだった。

この流れの中でビートルズに出会った若い世代も相当数いるはずだ。

2013年には新たにリマスタリング、また内容に若干の変化を加えて再リリース、同時にライヴ アット ザ BBC Volume2もリリースされた。

 

ビートルズのスタイリッシュなロックンロール

このBBCライヴではドイツはハンブルグ仕込みの荒っぽくパンキッシュな初期ビートルズならではのロックンロールが聴ける。

どの曲でもジョンはノリのいいリズムギターを弾きながら絶品のヴォーカルを決め、ポールはベースを弾きながらの強烈なシャウトを聴かせる。

フロントマンがふたりいるバンドというのはそうそうない。これは衝撃的だったはずだ。

現代のバンドを見回してもジョンとポールに匹敵するふたりのフロントマンなんてミックとキースくらいなものである。

 

また本アルバムではジョージがリードヴォーカルを取る曲が多く収録されており、奔放なリードギターとともにシンガーとしての魅力も再確認できるのがオリジナルアルバムにはない魅力的なポイントだ。

そしてビートルズにおけるジョージのプレーヤーとしての存在感がいかに大きかったががわかるのもBBCライヴの魅力。

ここでのジョージはロックンロールからR&B、ロカビリーからカントリーまでさまざまなスタイルに適応したギターを聴かせている。

BBCライヴではカバーが多く収録されていることから、ビートルズはアレンジが抜群にうまいということがわかる。

ではリードギターのパートはどうかというと、ジョージのセンスがモロに出る。

オリジナルに忠実に弾いているかというと微妙にちがう。

ここにジョージ・ハリスンの真骨頂があり、テクニックだけでは語れないサウンドの妙やタイム感のおもしろさ、独特のベンディングがあるのだ。

同時代のギタリストとの決定的な違いはこうした点だろう。

特にギターサウンドへの探究心、それはライヴにおいても具現化されていたが、こまかくトーンやピックアップを変えての演奏はジョニー・マーに深い感銘を与えることになる。

 

そしてリンゴがこのからからすでにシェイキーで最高のドラマーであったことも証明されている。

エイトビートで突っ込んでいく曲も、カントリーもR&Bにも呼応し、ビートルズの偉大なエンジンになっているのだ。

ビートルズのオリジナルナンバーはジャンルが広いが、それを可能にしたのはリンゴのドラマーとしての実力とセンスがあったからにほかならない。

リンゴもその音とタイム感で勝負するプレーヤーだが、そうした感性はジョージと共鳴するもので、ふたりが生涯の友人となったのも納得だ。

ハイテクニックなバンドはいくらでもいるが、そうしたバンドがビートルズに並ぶ実績を残したかというとそうではない。

ビートルズは曲がよかったからだ、という意見も間違いだ。

どんなにすばらしい曲でもアレンジと演奏次第である。

ビートルズのすごさの一端はアレンジのうまさ、そしてプレーヤーとしての互いの相性が奇跡的なまでによかった、という点。

この相性のよさというのは案外見過ごされているように感じるが、ビートルズが他のグループを凌駕した最大の要因であったとおもうのだ。

 

さて上に書いた通り、本盤では多くのカヴァーが収録されているが、なにより自分たちの好きな曲を楽しんで演奏しているのがつぶさに感じられるところになんとも親近感を覚える。

主だったところで言うとチャック ベリーやリトル リチャード、カール パーキンスなどだがロックンロールをスタイリッシュにアツく演奏するそのさまはのちのモッズやザ ジャム、Dr フィールグッドの姿に重なっていく。

注目すべきはR&Bも多く演奏している点であり、このあたりにビートルズローリングストーンズの違いがあっておもしろい。

ロックンロールに大きな影響を受けているのは両バンドともだが、ストーンズの場合はなによりブルース、ソウルが根っこであるのにし、ビートルズの場合はR&Bなのだ。

メロディが親しみやすく、バネの効いたリズムで踊れるところがクラブバンドだったビートルズには最適だったというところなのだろう。

ブルージーな曲もハズむリズムで演奏でき、コーラスで演奏を補完もできる。

本盤ではそうしたR&Bのすばらしいカヴァーが数多く聴ける。

ビートルズは世界を変えたロックバンドであり、同時に偉大なR&Bバンドなのである。

 

それに加えてラテンのリズムをいれた曲やミュージカル曲をやったり音楽的な幅が広かったのがビートルズの独自性であり柔軟なところだろう。

これが演奏面やのちのオリジナルナンバーでのメロディ性につながっていくわけで、ビートルズとカヴァー曲というテーマがはっきりと聴き取れるのもライヴ アット ザ BBCの魅力だ。

 

そして本盤にはかれらのトークも随所に収録されている。

ジョンの皮肉っぽいユーモアやコントのようなおふざけ、ジョージのクールなスカし、ポールの切り回しに爆笑をとるリンゴ。

ひとつのバンドのこうしたパーソナルな部分までもが魅力として世に放たれたのは、やはりビートルズが初だっただろう。

ビートルズ=ジョン ポール ジョージ&リンゴの呼び方が定着したのもかれらのユーモアが世界を魅了し、メンバーそれぞれの個性が単体でも愛された証明だ。

 

その後世界規模のビートルズブームが起き、かれらはライヴでお決まりのヒット曲しか演奏することを許されなくなってしまう。

だがここにはかれらがそうなる前の、大好きなロックンロールやR&Bのカヴァーを演奏していた頃のビートルズがいる。

晩年のジョンはよくこうしたビートルズとしての若き日々を思い出し、あの頃がいちばん楽しかったと語っていたそうである。

ライヴ アット ザ BBCにはその言葉通り、本当に楽しそうなビートルズが、リヴァプールの街のバンドだったビートルズがいる。

この盤の冒頭にはメンバー4人の短い自己紹介が収められているが、ジョンの自己紹介はすでにロックンロールスター。

これも必聴。

初期ビートルズのすごさが知りたければ、このBBCライヴは最適なカタログだ。

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おわり