他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ポール・マッカートニー ジャンルで選べる名盤ガイド

ポール・マッカートニーのおすすめ名盤をピンポイントで知りたいひとのためのブログ。

ジャンルに分けて名盤をレコメンド。

手早く読めるポール・マッカートニーのアルバム・ガイド。

青字のタイトルをクリックするとタワーレコードの商品ページに飛びます。

英国ロック2選

TUG OF WAR  82年

ジョージ マーティン プロデュースによる大ヒット作。

静謐なサウンドにノーブルなメロディが最高の融和を見せる。

荘厳な表題曲、意表を突いた転調を聴かせるポップなTake It Away、英国ロックの手本のようなThe Pound Is Sinking、感動的なWonderlust、陽光を感じさせる暖かなEbony And Ivoryなど名曲揃い。

レノン死後のアルバムだけにひとりの人間として世界をみつめなおした姿も見られる。

表題曲やビッグヒットしたEbony And IVory はその代表的なものだ。

その一方で明るいBallroom DancingやファンキーなWhat's That You're Doingなどが含まれる最上級のロックアルバム。

エモーショナルなヴォーカルが聴けるマッカートニーのソロ屈指の名作だ。

英米1位

TUG OF WAR LP

 

LONDON TOWN   78年

こちらも落ち着いたサウンドだが、上の作品に見られる内省的質感ではなく、開放的な自由さを感じるところが魅力。

いかにも英国の香りただよう一曲目からハードなロックチューン、ポップなトラディショナル的ナンバーまで、どれもとてもいい曲でまとめられている。

このトラディショナル風のアコースティックナンバーが多いのが本作の特徴だ。

本作は楽曲のよさはもちろんだが、Backwards Travellerでの高音ヴォーカル、パンクの流れから来たとおぼしきI've Had Enoughでの強烈なシャウト、Name And Addressでのロカビリーヴォイスなどポールのロックシンガーとしての真骨頂を聴くことができる。

また潮風がかすめるGirlfriendでのファルセットヴォーカル、穏やかな空気を感じるI'm Carryingの優しい声などハードなヴォーカルとソフトなヴォーカルの対比が見られるなどアルバムとしてのバランスもとれている。

そして本作の魅力を決定付けている暖かくやわらかなシンセサイザーサウンド

心地よく、時に切ない音色がさわやかな風にのって運ばれてくる。

ポートレイトなアルバムジャケットとともに飽きの来ない名作だ。

ウイングス時代の作品。

英4位 米2位

 

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大ヒットしたアルバム2選

BAND ON THE RUN 73年

プリミティヴで硬派なロックサウンド、聴き手を魅了するメロディ、ドラマティックな展開、ヒットシングル、名盤の香りただようジャケット。

どのアルバムもすばらしいポールの作品中にあっていまだ別格の佇まいを見せつづけている永遠のロングセラー。

組曲的な表題曲やミニマムなハードロックのJet、AORなBluebird、アフリカンなMrs Vanderbilt、ヘヴィなLet Me Roll ItにSF映画のクライマックスのようなNineteen Hundred And Eighty Fiveなど有名曲、ライヴでのレパートリーを含んだポールといえばコレ、の大定番だ。

ハードなヴォーカル、うたいまくるベースにポール自身のロックンロールドラムが炸裂する。そしてバンドらしさがこのアルバムから一気に増すこともポールのパフォーマーとしての力量をより引き出す結果となった。

70年代ロックアルバムの金字塔。

ポール マッカートニー&ウイングス名義としての作品。

英米1位

 

VENUS AND MARS 75年

豪華なサウンド、クレバーな作風にポップセンスが光る大名盤。

バラエティに富んだ楽曲が並ぶなかで、ヒットシングル、メロディのよい小品、米国南部ロック調のアコースティック作品、ボードビル調の曲、ソウルバラード、ニューオリンズR&Bなどを縦横無尽にとびまわる。

前作の大ヒットのあとでも売れ線に走らず、メロディのよさ、演奏の魅力で勝負したその心意気にポールの矜持をみるおもいだ。

得意のコンセプチュアルな表題曲を軸に、ライヴ向けのハードなRock ShowやズッシリとヘヴィなLetting Go、Spirits Of Ancient EgyptにMedicine Jarといったロックナンバーを随所に配置。

その中にアコースティックナンバーやアップテンポのピアノ曲で味を変え、最後はデカいバラードで大団円という、ひとつの物語をみているようなロックアルバムだ。

 

73年のアルバムREDROSE SPEEDWAYからはじまるその構成のうまさで聴かせるアプローチは本作VENUS AND MARSで頂点を迎える。

ウイングス版アビーロードとも言える絶頂期の完璧な1枚。

英米1位

Venus And Mars CD

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完成度の高いアルバム2選

FLOWERS IN THE DIRT  89年

稀代のメロディメーカー マッカートニーの面目躍如といえるアルバムで、あたまからおわりまで練り上げられたいい曲が揃っている。

それも存在感のある曲で占められているのが本作のつよみ。

Rough RideやWe Got Married、Put It Thereなどスティングのテン サムナーズ テイルズに共通する欧州の質感が佇むアルバムだ。

中でもDistractionsは欧州のシネマを観ているようなモノクロームな質感にとらわれる。

ポップソングもクオリティが高いものが揃えられており、My Brave Face、This Oneといったミディアムテンポの名曲、転調が冴えるFigure Of Eightなどは空間的で透明感のある最高のサウンドを聴かせる。

同時にビーチボーイズ的な転調を聴かせるバラードMotor Of Loveでは黄昏が見えてきそうなサウンドを施し、レゲエ的なナンバー、ゴスペル風のナンバーもそれぞれに映像的なサウンドを持ってアルバムの完成度を上げている。

ポールが80年代サウンドと和解した一作だ。

英1位  米21位

 

 

RED ROSE SPEED WAY 73年

A面はメロディのいい曲を並べ、B面は単体の曲からメドレーにつなげて聴かせるミニアビーロード

インストナンバーにはイエスをおもわせるヴァースがあったり、アルバム全編で構成が冴えわたる一枚。

MY LOVEのような大ヒットシングルも他の曲との違和感を持たせず、サウンドの統一も含めしっかり練られている。

反対に同時期のシングルHi Hi Hiがアルバム未収録なのはそのサウンドの違いと曲調がアルバム全体の方向からはずれてしまうという判断からだろう。

次作がやはり構成が見事なBand On The Runであることも納得の名作。

そして名曲One More KissやHands Of Love、Big Barn Bedはじめ愛くるしいメロディがいっぱいだ。

ポール マッカートニー&ウイングス名義

英5位 米1位

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これぞマッカートニーなポップな名盤2選

RAM  71年

当時メディアからは60年代ロックの腐敗とまで言われ、元ビートルズのメンバーからも酷評されたにもかかわらず、アルバム、シングルともにチャートでは成功した。

このころポールはメディアから敵視されることが多く、アルバムの内容が良くてもバッシングされていた。

現在ではポールの代表作として知られ、ロック名盤としても馴染みの1枚になっている。

ポップのパラレルワールドのような質感のなかにひそかに狂気性が混じる大傑作。

ビーチボーイズのペットサウンズにも通じるものがあるが、あらためてポールとブライアン ウィルソンの共通点に気付かされる。

チャート1位を記録したメドレー形式のUncle Albert/Admiral Halseyの凝った作り、悲しいほどに美しくエモーショナルなDear Boyや秘めたる破壊衝動を感じさせるRam On、アビーロードの終盤並みの怒涛の展開をみせる名曲The Backseat Of My Carなど全曲必聴だ。

手作り感にあふれたジャケットのインディっぽさも時代を先取りしたセンス。

ポール&リンダ マッカートニー名義

英1位 米2位

 


MEMORY ALMOST FULL   2007年

洗練されたサウンド、はつらつとしたヴォーカル、メロディアスなベースライン。

バンドと演奏した曲と自身がすべて演奏した曲を約半分ずつ配置した密室性が魅力のポップ作。

シンプルの極地のDance Tonight、80'sヒットをエレクトロっぽくしたようなEver Present Pastが続き、ジョン レノンが歌っても合いそうなYou Tell Me、スムースなR&BのSee Your Sunshine、クラシカルなMr Bellamyなど充実した曲が揃う。

中でも深刻さと唐突な明るさを行き来するVintage Clothesはブライアン ウィルソンの作風も胸をよぎる天才性を感じる曲だ。

Feet In The Cloudも少ないコードチェンジのなかでポップなメロディをつくるポールならではの楽曲。間奏でエレクトロなサウンドが顔を出し、終盤は重層的なヴァースで盛り上げるといった自由な創造性が飛び交う。

ヘヴィなHouse Of WaxやメタルっぽいNod Your Headまで音楽性の広さを存分に発揮したアルバムだ。

ミキシングはデヴィッド カーンとアンディ ウォレス、マスタリングはボブ ラディッグが担当し、迫力のあるサウンドを展開する。

英5位 米3位

 

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ポップと芸術性がミックスした玄人好みの2選

FLAMING PIE   97年

ビートルズアンソロジープロジェクトが終了後にリリースされたビッグヒット作。

プロデュースはジェフ リンだが、いつものジェフ リンのサウンドではなく、楽器の素音を活かしたシンプルなサウンドメイク。

アコースティックギターが全編でフィーチャーされており、ほぼすべての楽器をポールが演奏したホームメイドなロックアルバム。

素朴な曲が多いが、さりげなくもメロディがいい。

Young BoyやBeautiful Nightなどの親しみやすいポップ曲からマイナーコードを活かしたThe World TonightやIf You Wanna、ビートルズ的なSomedays、BluebirdをおもいださせるAORな美曲Heaven On A Sundayなど好曲が満載。

英2位  米2位

 

CHAOS AND CREATION IN THEBACKYARD  2005年

ナイジェル ゴドリッチと組んだ傑作。

ポール マッカートニーの世界と邦題をつけたくなるような作品だ。

不協和音をポップに使ったFine Lineでは英国的なストリングスが飛び出し、間奏ではまるで70年代に戻ったかのような展開を見せたかとおもえばまたもや不協和音で現代に引き戻されるといっためくるめく3分間。

陰鬱な中に甘いメロディが見え隠れするAt The Mercy、

レディオヘッドのピラミッドソングにも通じるHow Kind Of You、

Jenny Wren、English Tea、Too Much Rainの英国式の名アコースティックナンバー、

And I Love Herを思い出させる美曲A Certain Softnessではバックでラテン風のピアノが踊り、年代物のジャズのよう。

不穏なRiding To Vanity Fair、とろけるようなメロディを持つポップファン必聴のPromise To You Girl。

The Long And Winding Roadに通じる名曲This Never Happened Beforeなどソロ最高傑作と評したい仕上がり。

ほぼポールがすべての楽器を演奏しているのはFLAMING PIEと同様。ベースはもちろんピアノ、ドラムスと達者なプレイを聴かせる。

ポップと難解の融合をみせるアーティスティックな作品ながら、それでもメロディの良さが際立つのは流石。

これもまたポールの大名作。

英10位 米6位

CHAOS AND CREATION IN THEBACKYARD  SHM-CD

 

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時代を超えるごとに評価が高くなったアルバム2選

McCARTNEYⅡ   80年

ポール自身がすべての楽器を演奏し、プロデュースも自身で行った完全なソロアルバムにしてテクノを全体に取り入れた異色の作品。

全曲とんでもなくすばらしいメロディを持っており、純粋にメロディだけで言えばソロ作中でもっとも優れている。

また本作はテクノだけでなく、ポールにはめずらしいマイナーキーのスローブルースOn The WayやハネるブルースNobody Knowsが収められているが、なんの違和感もなくこなしてしまえるその才能に感嘆させられる。

そして本作のテーマであるテクノ曲が最高の仕上がりを見せるのがいかにもポール マッカートニーである。

愛らしいメロディとせつなさがヨーロッパの黄昏に消えていくテクノポップなインスト2曲にミディアムテンポのビートを効かせたマイナーのDarkroom、そしてソロ期を代表する大名曲Waterfallsが収録されている。

神秘的でマッカートニーの心象風景が描かれたようなサウンド、秘境に迷い込んだような美しいメロディが絶品だ。

クラフトワークやベルリン時代のデヴィッド ボウイのサウンドがすばらしいのは言うまでもないが、これほど美しいバラードにコンピューターミュージックのサウンドを融合させた作品はつくりえなかったわけで、テクノの新たな領域を開拓したナンバーだと言える。

Summer's Day Songもテクノバラードの名曲だが、こちらはノスタルジアにあふれたメロディに教会音楽をおもわせるコーラスがのる格調高い楽曲。

だが本作の核たる部分はなんといってもComing UpやTemporary Secretary、Bogey Musicのようなロックンロールにテクノを融合させた曲にある。

テクノポップは数あれどロックンロールにテクノを取り入れた楽曲はそうそう見つからない。

こうしたビンテージな質感が全体にあるからこそはじめに述べたブルース2曲もテクノアルバムであるにもかかわらずうまく収まっているのである。

こうした嗅覚は流石で、ミック ジャガーにも共通するセンスだろう。

ラストを締める曲はアコースティックギターによる美曲One Of These Days。これも名曲。

テクノ要素は入っていないがやはり無理なく収まっている。

ポール マッカートニーの天才が発揮された先鋭的なアルバムだ。

英1位 米3位

McCartney II

 

WINGS WILD LIFE 71年

ウイングスを結成し、すぐさまレコーディング、リリースされたバンドの初アルバム。

自由な空気感にあふれたラフな仕上がりではあるが、この開放的な空気感こそが本作の絶対的な魅力だ。

ジャケットに表れているように自然のなかでの雰囲気。これが実に心地よい。

曲はかんたんなジャムセッションの延長のようなMumboやBip Bopから明るく穏やかなグルーヴを聴かせるLove Is Strange、重厚な表題曲Wild Life、Dear Friend、愛らしくもせつない名曲Tomorrow、マイナーとメジャーを綱渡りする職人技のポップ曲I Am Your Singerなどラフな中にもしっかりつくりこんでいる部分があり、だからこそ何度も繰り返して聴けてしまう。

本作が気に入ったひとはファーストソロMcCARTNEYも愛聴盤になるだろう。

ウイングス時代の作品
英11位 米10位

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ロックンロール アルバム2選

RUN DEVIL RUN  99年

ロックンロールカヴァーアルバムに自身の新曲を混じえた名作。

デヴィッド ギルモアやミック グリーン、イアン ペイス、ピート ウィングフィールドらを招いたスーパーバンドでオールドロックンロールを激烈にハードに演奏している。

もちろんポールはドライヴィングベースを弾いている。

アップテンポの曲がほとんどで、バックのノイジーサウンドに負けないポールの太いシャウトが全編で聴ける。

ロッカバラードでのエモーショナルなヴォーカルも聴きものだ。

新曲はいずれもロックンロールナンバーでまるで50年代曲のカヴァーかとおもえるくらい堂に入っている。

ロックンローラー ポール マッカートニーの痛快作。

英12位 米27位

 

 

BACK TO THE EGG  79年

結果としてウイングスとしての最終作になったパワーポップアルバムの傑作だ。

キャッチーでメロディアスなロックンロールGetting Closer、シャウトヴォイスが炸裂するTo You、強烈なSpin It Onなどハードなナンバーから美しいバラードWe're Open Tonight 、Winter Rose/Love Awake、オールドタイミーなBaby's Request、本盤のハイライトAORの美曲Arrow Through Meなど名曲揃い。

有名なロックンロールインストRockestra Themeまで含むポール史上一番のエンターテイメントアルバム。

本作でのポールはライヴ後のようなややハスキーな声を何曲かで聴かせるのだが、これがロックチューンにハマっており、ライヴテイクのような荒々しさがあって最高のノリを抽出している。

ラズベリーズの諸作とともに聴きたくなる甘いメロディとハードな演奏がたまらない。

So Glad To See You Hereを聴けばわかってもらえるはずだ。

ウイングス

英6位 米8位

 

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終わらない伝説2選

NEW   2013

ひさしぶりにこういうのを待っていたというデカイ曲が収録されたのがポールの健在ぶりを示している。

はじまりを告げるイントロに胸が高鳴るNew、ポップなサイケデリアにあふれたアンセムQueenie Eye、寂寥感のあるアコースティックギターのフレーズに70年代っぽく物悲しくも懐かしいメロディが秀逸なEverybody Out There。これらは新たにポールの代表的な曲の中に入ったと言っても申し分ない。

アップテンポのロックチューンSave UsやデジタルっぽいAlligator、枯れた味わいのアコースティック曲On My Way To Work、クールなI Can Betなど錆びついていないマッカートニーのメロディが満載。

全体的にデジタルビートをうまくバックに配した好曲が揃うが、決してビンテージなロックフィーリングは損なわれていないのがマッカートニーブランド。

久しぶりの来日に合わせて発表され、日本列島にポール旋風を巻き起こした日本のファンにとって忘れじのアルバムでもあるが、内容も高水準だ。

英3位 米3位

NEW CD

 

EGYPT STATION    2018

デカい曲、ヒット性の高い曲はなく、センスのよい玄人好みの曲が全体を占める。

にもかかわらず米1位まで上りつめたのは、やはりポールの構成力によるところが大。

70年代の全盛期にみせたその構成のうまさはいまだ絶えていないのだ。

その中にメロディックなベースライン、ポールといえばのピアノプレイ、シンプルだがまねできないメロディをみつけることができる。

ハネるWho CaresやCome On To Me、泣きのバラードHand In Handではいかにもマッカートニーなコード進行、スウィートな声を聴かせる。

ホワイトアルバムに入っていそうなDominoes、エレクトロなBack In Brazil、

ウイングス時代を思い出させるHunt You Down/Naked/C-Link。

ビートルズはダテじゃないことを証明する大作。

英3位 米1位

エジプト・ステーション

 

-おわりに

60年代からいまに至るまでトップに君臨するポール マッカートニー。

ビリー ジョエルやスティングなどレジェンドすらも憧れるポール マッカートニー。

ビートルズ時代以降もいつだってポールはすごい。

結論はこれだった。

どのアルバムを聴いてもポールのベースはグルーヴに溢れたリズムで、

そして歌えるほどにメロディック

サウンドはアルバムごとに独立した音を構築し、

ヴォーカルはシャウトから甘い声まで自在に変幻する。

世界最高のロックシンガー、

世界最高の作曲家、

世界最高のベーシスト、

ポール マッカートニー。

 

あとは自分の好きなジャンルのアルバムから聴けば、ポールの魅力に出会えるはずだ。

おわり

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