ボビー・コールドウェルがジャック・スプラッシュと組んだユニットとしてリリースした2015年のアルバム 「クール・アンクル」。
図らずもこれがコールドウェルの遺作となってしまった。
コールドウェルのヴォーカルが全面的にフィーチャーされていることからボビー・コールドウェルのソロアルバムのひとつとしての側面を見出すこともできる作品である。
打ち込みを多用しクラブミュージックの要素を持つ現代的なサウンド。
同時にアーバンな夜の雰囲気を感じるそれはコールドウェルのTK時代のアルバムを思い起こさせる。
実際、収録曲のいくつかはコールドウェルのTK時代の二作、特にファーストアルバムの質感を強く意識したものだ。
これはジャック・スプラッシュによる意図したものだろう。
グルーヴィーなベースギター、ホーンの使い方、夜風が運んでくるようなキーボードはまさしくファーストアルバム「イヴニング・スキャンダル」のサウンドプロダクション。
おもわずジャケットのビッグムーンに映し出されるボビーのシルエットがよぎる。
中でも3曲目のBreaking Upや7曲目のEmbrace The Night、ラストトラックのOutroなんてそれこそファーストアルバムに収録されていてもなんの違和感もない曲であるし、トロピカルでダンサブルなMiami Nightsも往年のボビー・コールドウェルをおもわせるこれぞ!の一曲。
4曲目のNever Knew Love Beforeもリズミックなビートに麗しのヴォーカルが乗る名曲。
ここでのシンセサイザーはファーストアルバム収録のCan't Say Goodbyeで聴けるあの音である。
時が戻ったような錯覚に陥る。
6曲目のDestinyでは踊るホーン、Yeah Yeah とボビーがフェイクする時の声が素晴らしく、こちらもまるで70年代のレコードを聴いているようなビンテージなフィーリングが最高だ。
ジャック・スプラッシュはコールドウェルに影響を受けていたという背景を持つひとなので、現代的なサウンドにボビーの良さを立たせるにはどうするべきかをしっかりと読み取れたのだろう。
洗練されたR&B的なサウンド、強力なビートはボビー・コールドウェルと実に相性がいい。
コールドウェルのヴォーカルもハリがあり、やはりこうしたビートの強調された曲で聴かせる黒っぽい声が真骨頂だと再確認。
おもえば長い間、コールドウェルのこうした黒いヴォーカルは聴けなかったようにおもう。
Perfect Island NightsやHouse Of Cardsはいい作品であったし、そこでのヴォーカルはどれもスムース、時にクルーナーでやわらかく、快活な響きを持つものだった。
けれどファーストアルバムでのあのハリと黒くソウルフルな声はなかった。
本作「クール・アンクル」が特別な作品になったのは各トラックの素晴らしさがコールドウェルの黒いヴォーカルを引き出した点にある。
実にエモーショナルでR&B的なアルバムだ。
そこにブルーな影をそっと落としていくところがボビー・コールドウェルの美学であり、これはロイ・オービソンとも通じる部分だろう。
本作ラストのOutroは先述のようにファーストアルバムに入っていそうなAOR。
これぞボビー・コールドウェルと呼びたくなるセンチメンタルな旋律。
ボビーが亡くなった今となっては曲が終わったあとの余韻があまりに切ない。
キャリアの最後を飾る曲がファーストアルバムの頃に戻ったような曲であるというのは、ボビーの音楽人生は一周した、ということか。
そう思うとなんとも感慨深く、そしてさみしさも募る。
けれどキャリアの最終アルバムがこうした素晴らしい作品だったことはコールドウェルが真摯に音楽に取り組んできたからこその結果だ。
本作はボビーのファンはもちろん、幅広い音楽ファンにレコメンドできる作品であることを聴き手に証明してくれる。
現代的なプロダクションにボビーの往年の作風をブレンドしたロマンティシズムに溢れるアルバムだ。
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Cool Uncle (Bobby Caldwell / Jack Splash)/Cool Uncle
おわり