他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

バンド・オン・ザ・ラン50周年記念エディション アルバムガイド

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ポール・マッカートニー&ウイングスの名盤「バンド・オン・ザ・ラン」が発売50周年を記念しての新装盤でリリースされる。

今回は2枚組CD、2LP、1LP、デジタルのみでドルビー・アトモス・ミックスもリリースされる。

この2枚組の内容はCD、LPとも1枚目がオリジナルアルバム、

2枚目がアンダーダブドミックスと名付けられたもの。

これはオリジナル盤のオーバーダビングされた部分、つまりギターやヴォーカル、オーケストラパートなどがベーシックトラックの上にオーバーダビングされていない別ミックスだ。

73年にジェフ・エメリックとピーター・スウェッテナムが制作したラフミックスとのことだが、曲順がオリジナルとまったく異なるのがおもしろい。

ちなみにこの曲順はラフミックス制作時のものであるとのこと。

興味深いのはミックスが異なるからこそ曲順もオリジナルとは変わるという点。

オリジナルに重ねられたオーバーダビングパートによってどれだけ曲の印象が変わったのか、その制作背景に迫ることができるドキュメンタリー的価値もあるだろう。

なによりオーバーダビングの下の元の演奏がしっかり聴けるので新たな発見もある。

オーバーダビングしたパートをカットしただけならよくある企画なのだが、今回のアンダーダブド・ミックスに関しては当時制作されたラフミックスであるという点が重要だ。


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こうしたミックス違いはあくまで古参ファン向けではある。

ただし今回はオリジナルアルバムとこのミックス違いの2枚組が最大限で、デカいボックス仕様のリリースはないのが最大の利点。

購入しやすいので、これを機に若い音楽ファンがバンド・オン・ザ・ランを聴くきっかけになれば素晴らしいとおもうのだ。

おもえばポールのリマスター・アーカイヴ・プロジェクトではいずれも高額なボックスセットをメインにしたものだった。

2枚組仕様もリリースされてはいたけれど、それだとボックスだけに収録されていた音源は聴くことはできない。

なによりあんなに高額なボックス仕様だと購入者層も限られてしまう。

あと置き場所に困る。

意外とこれが一番問題だったりする。

今後ポールのリマスター・プロジェクトが再開するなら、こうした2枚組仕様でいいんではないかと思うし、それを確かめる今回の2枚組仕様ともなりそうだ。

アルバムの内容に関しては以前このブログでポールのアルバムガイドの方に書いてあるので、興味がある方には一読してもらえればとおもうのだけれど、

本作はポール・マッカートニーといえばこれ、という傑作として知られる1973年の大ヒット作品である。

米英1位を記録し、今も輝くポールのベストセラー。

ジャケットの良さも歴史的。

ビートルズ解散後、批評家やアンチから作品のセールスと内容に関係なく批判されてきたポールの起死回生の一撃。

いつの時代にも理不尽なアンチはいるようだが、本作はそんなアンチ連中を黙らせたのも痛快だ。

内容はと言えばナイジェリアはラゴスでのレコーディングに臨み、源流のロックサウンドとミニマムな楽器編成が際立つ。

このあたりにはジョン・レノンのファーストアルバムであるジョンの魂との共通点だ。

ポール得意の組曲ロック「バンド・オン・ザ・ラン」シングルとして米1位、英3位、

ピカソズ・ラストワーズ」から

ドライヴィングにベースがうなるロックナンバー「ジェット」シングルとして米7位、英7位、

ヘヴィなギターリフを持つ「レット・ミー・ロール・イット」、

騒々しく転がる「ヘレン・ホイールズ」、

自然界をおもわせるサウンドを持つメロウな「ブルーバード」、「マムーニア」、

ロディックな「ノー・ワーズ」、

アフリカ的な「ミセス・ヴァンデビルト」では部族の儀式を思わせるホー・ヘイホーというフレーズがとびまわり、隙間の空いた演奏のなかでポールのベースがブンブンうなる。

ラストのSF的なロックナンバー「ナインティーン・ハンドレッド・アンド・エイティー・ファイヴ」ではまたも組曲的なつくりを入れながら流麗なコーラスがフィーチャーされ、終盤にはヘイ・ジュードでもおなじみ、これぞポール・マッカートニーな煽りが聴き手を高揚させる。

そしてこれまた得意のリプライズ演出がとびでてくるなどビートルズ時代からのギミックのうまさも見せる。

楽曲の充実はもちろん、音数の少ない隙間を空けた演奏の素晴らしさ、ポールのシンガーとしての凄み、真骨頂のメロディックなベースプレイ、そしてドラムスも担当するマルチプレーヤーとしての実力、アフリカの原風景を感じさせるサウンドの素晴らしさなど、本作の魅力は挙げていけばキリがない。

またデニー・レインのギター、ハーモニー、

リンダ・マッカートニーのコーラス、本作のカラーとも言える特徴的なキーボードなどバンド感に溢れているのもたまらないのだ。

そしてポールのクリエイターとしての才がこれでもかと充満している。

その上でやっぱりどの曲もメロディがいい。

ロック、バラード、その他なんでもござれ。

まさしくポール・マッカートニーの面目躍如である。

現状今回のCDに関しては、オリジナルアルバムのリマスターはだれが担当しているかの記載がないが、いったいだれの手によるものなのだろう。

一方でLP盤のインフォには1973年に作成したオリジナル・マスター・テープからのハイレゾ音源を使用したハーフスピード・カッティングで、アビイ・ロード・スタジオマイルズ・ショーウェルが担当とある。

ハーフスピード・カッティングの名手とされる存在である。

LPにハイレゾマスターを使用しているので、同じハイレゾマスターをCDのリマスターにも使用しているのだろうけど。

どのエンジニアが担当したのかなぜ記載がないのか疑問ではあるのだが。

とにかくSACDでなくても、使用するマスターがハイレゾだとやっぱり音質が全然違うので期待は大である。

仮にCDのリマスターがハイレゾ音源でなかったとしても50周年記念盤なので、最新リマスターであることは間違いないだろうし。

アンダーダブドミックスもいいけれど、このオリジナルアルバムのリマスターがあってこそ。

90年代リマスター、2010年リマスターと来て、今回はどんな質感になっているのか。

バンド・オン・ザ・ラン 50周年記念エディション

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おわり