遂に来た!
モット・ザ・フープルによる72年の名作「すべての若き野郎ども」の50周年記念ボックスのリリースである!
内容は2CDに2LP、12インチの計5枚組。
2CDと2LPには最新リマスタリングされたオリジナル・アルバムとレア・ミックス、シングル、セッション音源が収録される。
また12インチにはシングル「すべての若き野郎どもALL THE YOUNG DUDES」のレアなアンロックド・カーズ・ヴァージョンとモットによる英国ロックンロールの名曲「新しき若者たちONE OF THE BOYS」のレアなUKシングルBサイドヴァージョンを収録。
そこに72ページのハードカバーブックレット、2枚のポスター、3枚のアートプリント、
ファンクラブカードの復刻版、そしてシリアルナンバーが入った証明書が封入された豪華仕様。
ソングリスト
Disc 01
- A1. Sweet Jane (04:21)
- A2. Momma’s Little Jewel (04:27)
- A3. All The Young Dudes (03:32)
- A4. Sucker (05:03)
- A5. Jerkin’ Crocus (04:01)
- B1. One Of The Boys (06:47)
- B2. Soft Ground (03:17)
- B3. Ready For Love / After Lights (06:47)
- B4. Sea Diver (02:45)
Disc 02
- C1. One of the Boys (1980 Remix of 1971 Island Recording) (04:19)
- C2. Black Scorpio (1980 Remix of 1972 Island Recording) (03:39)
- C3. Movin’ On (1980 Remix of 1972 Island Recording) (02:58)
- C4. Ride On The Sun (1980 Remix of 1972 Island Recording) (03:37)
- C5. All The Young Dudes (1998 Bowie / Hunter Vocal Audio-Morph) (04:25)
- D1. One Of The Boys (Edited Version) (04:22)
- D2. Sweet Jane (US Single A-Side) (03:16)
- D3. Shakin’ All Over (Trident Session Outtake) (02:50)
- D4. Please Don’t Touch (Trident Session Outtake) (02:34)
- D5. So Sad (To Watch Good Love Go Bad) (Trident Session Outtake) (02:12)
- D6. One Of The Boys (US Single A-Side) (02:48)
Disc 03
- 1. Sweet Jane (04:21)
- 2. Momma’s Little Jewel (04:27)
- 3. All The Young Dudes (03:32)
- 4. Sucker (05:03)
- 5. Jerkin’ Crocus (04:01)
- 6. One Of The Boys (06:47)
- 7. Soft Ground (03:17)
- 8. Ready For Love / After Lights (06:47)
- 9. Sea Diver (02:45)
Disc 04
- 1. One Of The Boys (Original 1971 Island recording) (04:13)
- 2. Black Scorpio (Original 1972 Island recording) (03:04)
- 3. Movin’ On (Original 1972 Island recording) (02:43)
- 4. Ride On The Sun (Original 1972 Island recording) (03:36)
- 5. All The Young Dudes (1998 Bowie / Hunter Vocal Audio-Morph) (04:25)
- 6. One Of The Boys (Edited Version) (04:22)
- 7. Sweet Jane (US Single A-Side) (03:16)
- 8. Shakin’ All Over (Trident Session Outtake) (02:50)
- 9. Please Don’t Touch (Trident Session Outtake) (02:34)
- 10. So Sad (To Watch Good Love Go Bad) (Trident Session Outtake) (02:12)
- 11. One Of The Boys (US Single A-Side) (02:48)
Disc 05
- A1. All The Young Dudes (Unlocked Cars Version) (03:33)
- B1. One Of The Boys (UK Single B-Side) (05:35)
グラムロック華やかなりし時代。
デヴィッド・ボウイとモット・ザ・フープルの邂逅が生んだ英国ロックンロールの代表的な作品にふさわしいデラックスなボックスなのである。
ボックス以外ではアナログ2枚組がオレンジヴァイナルカラーで単体発売。
現時点では最新リマスターCDの単体発売はないようだ。
名盤の香り立ち込めるこのジャケットになんとも言えぬ魅力を感じ、はじめて聴いたモットのアルバムがこれだった。
英国らしい風情に溢れるこのロックンロール・アルバムを何度も聴くうちにヴォーカルのイアン・ハンターの声が好きになり、このアルバムはわたしにとって愛聴盤となった。
またデヴィッド・ボウイのプロデュースという触れ込みにも強く興味を持ち、その仕上がりの中に確かにボウイの姿があることにも感激したのだった。
まさに押して引くロックンロール・アルバムなのである。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「スウィート・ジェーン」をアップテンポなロックンロールに仕上げたカバーにはじまり、
妖しくピアノが転がる「ママのかわいい宝物 MAMA'S LITTLE JEWEL 」、
永遠のロックアンセム「すべての若き野郎どもALL THE YOUNG DUDES」、
レイジーで退廃的な「サッカー」、
ストーンズにキンクスの香水をふったような英国ロックンロール「ジャーキン・クローカス」、
これもロックンロール・アンセム「新しき若者たちONE OF THE BOYS」、
重々しくじわじわ迫る「ソフト・グラウンド」はのちのメタルにも通じる魅力があり、
ミック・ラルフスによる「レディ・フォー・ラヴ/アフター・ライツ」はのちにラルフスがポール・ロジャースと結成するバッド・カンパニーでもとりあげる名曲だ。
ラストのドラマティックなバラード「潜水夫 SEA DIVER」の荘厳とした絶望と孤独はこのアルバムが傑作であることを誰しもに証明して終わる。
デヴィッド・ボウイのプロデュースの功
本作におけるデヴィッド・ボウイのプロデュースに関してだが、やはりこのひとはだれかを救済する手腕に長けた人物だったようにおもう。
のちにボウイはこれも彼自身がファンだったイギー・ポップのシーン復帰に力を貸し、共同プロデュース、楽曲の共作、レコーディングなどアルバム制作を全面的にフォローし、完成したアルバムはイギーの名作として知られることになる。
ここから感じるのは、ボウイがプロデュースで参加した作品にはそれまでのモットやイギー・ポップのカラーとは異なるものになっている点だ。
具体的には楽曲のメロディやアレンジ、演奏が明確になっているのだ。
だからヘヴィな曲をやっても重い曲をやっても聴きやすいのである。
このモット・ザ・フープルのプロデュースに於いても、イアン・ハンターやミック・ラルフスがつくったメロディ、アレンジに手を加え、調整し、わかりやすいメロディにした部分が多分にあったのではないかとおもう。
なぜなら次作「モット」や「ロックンロール黄金時代」とくらべるとよくわかるが、メロディセンスが本作だけはっきりとした違いを見せているからだ。
それこそ「ソフト・グラウンド」におけるイントロの重くノイジーなサウンドはボウイがイギーと制作した名作「イディオット」に通じている。
こうしたデヴィッド・ボウイのセンスがモットの無骨なロックンロールバンドとしてのたたずまいにキャッチーな側面、つまりわかりやすさを与えている。
たとえば冒頭の「スウィート・ジェーン」はルー・リード作品だが、このカヴァーはリード作品のフォロワーであったボウイの選曲に違いない。
スウィート・ジェーン♫のリフレインに導かれて出てくるリードギターはそのノーブルなメロディに麗しのギターサウンドがすばらしく、それまでのハードロックバンド然としたモットには見られなかった優雅さを感じる。
またハンターの声とモットの躍動する演奏がこの曲にガチハマリで、バンドのオリジナル楽曲のように堂々たる存在感を放っているのだ。
これを見抜いたボウイの慧眼。
このボウイの慧眼と直感が本作をヒットアルバムにした大きな要因だ。
また表題曲の歌詞の世界とボウイの72年発表「ジギー・スターダスト」収録の「5年間 FIVE YEARS」に書かれた歌詞の世界はつながっていたり、「潜水夫 SEA DIVER」はボウイの「スペース・オディティ」の舞台を宇宙空間から深海に変えたものであったり、モットとボウイは作品内でもつながりを見せているのが本作の奥深さであり、よくあるヒット作から逸脱した歴史的名盤になるに至った要素と考えるべきだろう。
本作に用意された楽曲はどれも一級品の曲ばかりだが、ボウイプロデュースの底上げを受け、
ロックンロールをいろんな形で聴かせていく。
瑞々しい演奏とハンターの声の魅力をはっきりと前面に出しているのもボウイの制作手腕だろう。
曲順もしっかり練られ、前半はアップナンバー、後半にかけてスローで重く攻める緩急がニクい。
玄人ファンもおもわずニヤリなつくりである。
このスローナンバー、重いナンバーの使い方が上手いのもデヴィッド・ボウイ得意の手法なのである。
ロックンロールは敗者のゲーム
2015年に下北沢で行われたイアン・ハンターの3DAYS。
どの公演もイアン・ハンターの声は絶好調で日ごとに変わるセットリストも最高のロックンロールショウだった。
先に書いた「スウィート・ジェーン」も演奏され、オーディエンス全員でシンガロング状態の大盛り上がりだった。
そんなイアン・ハンターがフロントマンを務めたモット・ザ・フープルはロックンロールシーンの光と影を体現した人たちだ。
アイランドからデビューしたかれらは暴力的とも評されたライヴで多くの若者たちから支持されたものの、レコードセールスには結びつかず。
バンド内では不和も生まれ、4枚のアルバムを発表後、解散することを決める。
ところがその報を知ったデヴィッド・ボウイが自身がモットのファンだったため、アルバムをプロデュースをすることを申し入れる。
ボウイの説得によりアルバムをつくることを決めたモット・ザ・フープルはアイランドからCBSに移籍。
そしてボウイはプロデュースのみならず、本作の表題曲も提供。
結果としてボウイ制作のアルバム「すべての若き野郎ども」は英21位、米89位まで上昇。
表題曲はシングルとして英3位、米37位。
バンドの代表的楽曲、そしてロック・アンセムとして聴き継がれることになる。
この曲の変拍子の部分はオアシスがスタンド・バイ・ミーでそのまま使っていたりする。
ともあれ本作はシングル、アルバムともにバンドにとって初の大きなヒットとなったのだった。
続くアルバム「モット 革命」ではバンドがプロデュースを担当し、セールス、反響ともに好調を持続。
最高傑作と位置づけるファンも多い作品となった。
ところが成功を手にしたバンド内ではイアン・ハンターの支配力が強まり、メンバー間のパワーバランスにおける不和が生まれるなどして、メンバーの脱退、新加入などにつながる。
曲折の末、イアン・ハンターもバンドを脱退し、モット・ザ・フープルは解散となる。
そしてハンターはソロで成功を収めることになる。
バンドが解散に至るこうした背景は多くのグループに共通するものとは思うが、モットの場合、やりきれない悲しさがつきまとう。
バンドとしての連帯が役目を終え、解散する直前になって起死回生でヒットを放ったのに、そのはじめての成功によって分裂が確かなものとなり、結局は解散の道を行く。
どちらにしても悲しい結末だったのだ。
挫折、成功、自我、瓦解。
ハンターはロックンロールは敗者のゲームと歌うことになる。
その姿が皮肉なほど似合うのがモット・ザ・フープルの魅力でもあるのだから、ロックンロールバンドというものは本当に複雑である。
世界的成功を手にしたビッグなバンドもいいが、モットのような夢やぶれたロックンロールバンドが鳴らしたサウンドはだからこそ野放図でありながら、そのたたずまいには繊細でブルーな憂いがある。
そしてわたしにとってはそれこそが英国ロックの音といえる質感で、このバンド特有の魅力であり、輝きだと感じるのだ。
変わらないイアン・ハンター/生き続けるモット・ザ・フープル
そんなモット・ザ・フープルの代表作品が50周年。
大いなる年月を乗り越えたのだ。
そしていまでもイアン・ハンターは現役でロックンロールをハスキーでドスの効いた声で歌っている。
2023年に発表された現時点での最新アルバム「DEFIANCE PART 1」にはリンゴ・スター、ジェフ・ベック、スラッシュ、テイラー・ホーキンス、その他書ききれないほど豪華なゲストが多数参加しての躍動感に溢れたロックンロールアルバムに仕上がっており、こちらも必聴だ。
下に貼った「BED OF ROSES」ではわれらがリンゴが最高のバックビートを聴かせている。
ビートルズファンにはスタークラブが登場するのもうれしいところ。
5:12秒にはあのひとの姿も。
2020年から制作をスタートさせたアルバムなのだが、2023年時点でハンターが84歳!リンゴが83歳!
このレコーディングのときにふたりとも80歳を超えている。
この力感はどうだろう。
魂が燃えていればこんな音が出せるのだ。
「すべての若き野郎ども」から50年。
時代は変わり、さまざまなものが変容した。
利便性ばかり向上し、なにか大事なものが消えてしまった。
それでも変わっていないものもある。
いまハンターはBED OF ROSESでThe Band Played All Night Longと若かりし日々を歌っている。
決して懐古的なものではなく、前を向いた希望がそこにある。
なぜならあの頃から今日に至るまで、ハンターはずっと変わらずロックンロールを歌っているからだ。
どんなに時代が変わろうと
変わらないものがある。
それに気づかせてくれる今回のリイシューだ。
おもわずロックンロールと叫びたくなる。
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IAN HUNTER / DEFIANCE PART 1