ビートルズ1 リリース年別のサウンドと特徴
ビートルズをはじめて聴くひとには赤盤・青盤がいいというのは以前このブログに書いた。
「ビートルズ1」はそのあとで聴くほうが楽しめるものだからである。
とはいえ「1」から聴きたいひともいるだろうし、
もしくは赤盤・青盤やオリジナルアルバムを聴いた上でつぎは「1」を聴きたいというひともいるだろう。
そこであらためてショッピングサイトをみたのだが種類が多く、また内容のちがいがまあ、わかりにくい・・・。
商品解説がおおざっぱでいまいちはっきりとしないのだ。
発売年が書かれていないページも多く、リマスターされた年がわからない。
これではどれを買えばいいかわからず、
その結果とりあえず一番あたらしい2015年リリースのものを購入するひとがほとんどだと思われる。
そこで「ビートルズ1」における各種類の抜本的なちがいと、どれを選ぶのがいいかをまとめてみる。
なお、各項目ごとにアマゾンの商品リンクを貼っている。
まずビートルズ1のCDには現時点で3つのマスター音源が存在する。
以下がその特徴である。
ビートルズ1 2000年リリース盤
これは24ビットでのデジタルリマスター。
アナログ音質が主流のいまとなっては高音成分がやや強く感じるものの、ギラッとメタリックでザラっとしたその音は実にロック度が高い。
特にギターの金属的な響きのリアルさは特筆モノ。
シンバルの音も鮮明で、この2000年盤は高音成分の再現が魅力。
音圧もしっかりしているが、この2000年盤は少し音量を上げて聴いてみるのがオススメだ。
するとベースとドラムスが大迫力で前面に迫ってくる。
細部まで丁寧にリマスタリングしてある証明である。
2000年といえばザ・バンドの24ビットリマスターシリーズも出た年で、こちらも最高のリマスターだった。
どちらも今の時代でも通用するすばらしきリマスター。
この音でのビートルズリマスターシリーズを今からでもリリースしてほしいくらいの傑作だ。
ビートルズ1 2011年リリース盤
こちらは2009年リマスター音源を採用したもの。
2009年にはビートルズのオリジナルアルバムのリマスターシリーズがリリースされたが、その音源を使って再リリースされた「ビートルズ1」である。
まあ、こっそりこの「1」用に音を変えて調整している可能性もあるが。
質感としてはアナログレコードを再現したサウンドで、2000年盤より音が柔らかく、しなやか。
アナログ的といってもモコモコした音ではなく、やわらかくもクリアーな音だ。
そして高音、中音、低音、そして音圧の圧倒的バランスのすばらしさ。
これこそが2011年盤の強み。
特に低音と中音の力強い音と音圧がドン!!とこちらに迫ってくる。
エレクトリックギターやアコースティックギターのストローク、シンバルなどの金属的な高音も鮮明で実に迫力がある。
2000年盤の高音も魅力だが、特にこの中音域の充実は2011年盤が勝る。
60年代のビートルズサウンドに忠実なこの2011年盤が「1」シリーズの中で中核になる仕上がりと言える。
繊細でいて豪放。
豊潤なリマスターである。これもまた傑作。
ビートルズ1 2015年盤
ビートルズのプロデューサーだった名匠ジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティンが総合プロデュースを担当した最新リマスター&ニューミックスによるあらたな「ビートルズ1」。
ジャイルズとサム・オケルがニューミックスを制作している。
音の印象としては2011年盤の音をすこしシャープにした感じだ。
あと音圧がとにかく強い。前面に音がガンガン迫り鳴ってくる。
ニューミックスに関しては、曲ごとに楽器の定位や音の鳴りが旧来のものと異なるわけだけれど、
はじめてビートルズを聴くひとにはミックスの違いがわかるわけがないのでその点は特にデメリットにはならないだろう。
単純に聴いてどう感じるか。これが問題である。
そこで特徴をまとめるとこの2015年盤は一定して音圧がかなり強い派手なビートルズ。
ヴォーカルがこれでもかと前面に出ていて、音の分離がハッキリしている。
音質は2011年盤から大きな向上とまではいかないと感じるが、趣きとしての変化は感じる。
ただしそれ以上に奥行きや横への音の広がりなどサウンドの全体的変化のほうがはっきりとわかる。
音圧が強いリマスターが好きなひと、すべての音が機械的にしっかり聴こえるミックスが好きなひとに向いている。
またこの2015年盤にはミュージックビデオのDVDまたはブルーレイが付いたものがある。
曲目はオーディオCDと同一。
音声は2015年ニューミックスと5.1チャンネルが採用されている。
またポール、リンゴのコメンタリーもいくつか収録。
このDVD、ブルーレイは単体販売もされていた。
そしてオーディオCD と上に書いたDVDまたはブルーレイにボーナスDVDまたはボーナスブルーレイがついた3枚組の「ビートルズ1+」も存在する。
このボーナスDVD(ボーナスブルーレイ)もミュージックビデオ収録なのだけれど、
上のDVD(またはブルーレイ)とは曲目が違っている。
ここでの音声も2015最新ミックス。
フリー・アズ・ア・バードとリアル・ラヴにはジェフ・リンもニューミックス制作に参加している。
こちらのボーナスDVD、ボーナスブルーレイは単体販売はなかったようだ。
ビートルズ1+ CD+Blu-ray+ボーナスBlu-ray
結論 どれから聴くか?
①位 ビートルズ1 2011年盤
この3種の中ではやはりこの2011年盤を一番に聴くべきだと感じた。
実はわたしはこの盤で使用されているビートルズの2009年リマスターにはあまりいい印象を持っていなかったのだが、今回この2011年盤のビートルズ1を何度も聞きなおし、結果そのバランス力のすばらしさに今更ながら驚いた次第。
音質、音圧、中音域と低音域の充実、そこから来るロウなパワー感、鮮明な高音、アナログ感から生まれる60年代のサウンド、瑞々しいヴォーカル。
等身大のビートルズを感じることができる充実のマスタリング。
最新テクノロジーに頼っただけのリマスターではなく、エンジニアたちの人間的な温もりや手腕とセンスを感じることのできるヒューマンなリマスター。
ビートルズ1を聴くならこの2011年盤からにしておけばまず間違いない。
②位 ビートルズ1 2000年盤
中音域の充実さで2011年盤が勝るので僅差で2位。
とは言えこの2000年盤の中音域も見事な仕上がりなので、双方ともにそのすばらしさには遜色なしというのが正直なところ。
この2000年盤も今の時代でもまったく問題なく通用する名作だ。
2011年盤とこの2000年盤はどちらも持っておくことを薦めたい。
この2000年盤を聴くといつもボブ・ディランの66年の傑作「ブロンド・オン・ブロンド」のサウンドを思い出す。
メタリックでザラっとした水銀のような音である。時代の空気を追体験できるこういう音は後追い世代のロックファンにぜひ聴いてもらいたい。
魅惑のシャープネスと鋭さを持ったリマスター盤。
今後もビートルズファンだけでなく、幅広くロックファンに聴き継がれるべき1枚だ。
ディランのブロンド・オン・ブロンド、
ザ・バンドのミュージック・フロム・ビッグピンクの2000年リマスターとともに聴いてみることも合わせておすすめしたい。
③位 ビートルズ1 2015年盤
ビートルズ1の中では一番最後に回すのが得策だと思われる。
はじめてビートルズを聴くひとにはニューミックスであることのデメリットはないとは言え、それでもまずは旧来の「ビートルズ1」を聴いてからのほうがその違いを楽しめるだろう。
上の2枚を聴いて、サウンドや音質の違いを楽しむ目的を持ってはじめて購入の価値が生まれるのがこの2015年盤だと思う。
もうひとつ後回しにする理由としては、この盤は現代的なサウンドで、音圧が強く派手な反面、英国ロックの繊細さには欠けるからである。
ビートルズもローリングストーンズもキンクスもストーンローゼズも英国バンド特有の繊細さがあるから荒っぽいところやロウな部分が活きるわけで。
この2015年盤はそうした繊細さをごっそりカットしたものだから、悪く言えば音圧のゴリ押しになってしまった。
また音圧は上げているにもかかわらずスカスカになってしまったトラックや明らかにパワーダウンしたトラック、ベースドラムを前に出しすぎてヘッドフォンで聴くと耳が辛くなりそうなトラックなどはっきりとしたデメリットも確認できる。
リマスターやリミックス制作におけるこの人のバランス感覚はどうにも不可解である。
機微とかケレン味というのがないのが致命的・・・。
よってこの2015年盤のビートルズ1は、ビートルズの本来的な魅力という点では上の2枚と比べ劣ると感じてしまう。
そもそもニューミックスというものはオリジナルと比較してはじめて意味を成す。
あくまで本来のビートルズとは別物として聴くものなので、音質やサウンドの違いを楽しむ準備ができてからのほうが適している1枚だ。
ということで、ビートルズ1を聴くなら、
2011年盤か2000年盤から。
その上でサウンドの変化を感じたいなら2015盤に手を伸ばしてみればいい。
今後ビートルズプロジェクトはジャイルズ・マーティンチームが取り仕切るのはほぼ決定的なので、ジャイルズが関与していない2011年盤と2000年盤はいつまで買えるのだろう。
できれば恒久的に買えるように残してほしいものだが・・・。
おわり