リンゴ・スター 名盤ヴァーティカル・マンとリンゴのドラミング
70年代半ばから80年代にかけて長く低迷したリンゴ スター。
アルバム、シングルとも売れなくなり、ライヴ活動も行わなかったかれには策がなくなってしまう。
さらにはアルコール依存もひどくなり、 まともに演奏できなくなってしまったのだった。
施設にはいり、アルコール依存を克服したリンゴは1989年に自身を看板としたものとしては初のライヴ活動を開始。
これがいまもつづくリンゴ スター アンド ヒズ オールスターバンドのはじまり。
もはやネヴァーエンディング ツアーである。
そして92年には名盤Time Takes Timeをリリースして、その後もツアーに出るなど、ソロ ミュージシャンとして存在感を強くしていく。
リンゴ スターの名作レビュー第2弾はそんなビートルズブームが熱を帯び1998年に発表されたVertical Man.
マーキュリーからリリースされ、米61位を記録した作品だ。
VERTICAL MANはビートルズでラトルズな名盤
それまでの低迷を考えれば充実のセールスにおもえるが、マーキュリーとしては販売予測を下回ったらしい。豪華ゲストが多数参加しているから、予算もかかったのかもしれない。
Vertical Manから間髪入れずに突如リリースされたライヴ アルバムVH1 Story Tellersの背景も、Vertical Manの売上が予測を下回ったことのテコ入れだったというはなしもある。
内容に反して埋もれてしまった感がつよいのだ。
それだけに、何年も前だけれど、日ユニバーサルからリンゴ スター リマスターシリーズとして 、本作がラインナップされていたのは、このアルバムの良さが正しく届けられる機会となり得たはずだった。当然リマスターの仕上がりにもよるけれど。
中止の理由はわかりかねるが、オフィシャルから却下されたか、注文数がふるわなかったのか。リマスターはいつになることやら・・・。
ということで隠れた名盤のうちに聴いておこう。
なんといっても本作は73年の名作RINGOにならぶ傑作なのだから。
前作Time Takes Timeでは意図的なあとノリドラミングを披露したリンゴ。
本作ではこれぞリンゴ スターなタイム感でのプレイをバシッとキメている。
④でそれがよくわかるとおもう。
1.ワン
2.ホワット・イン・ザ...ワールド
3.マインドフィールド
4.キング・オブ・ブロークン・ハーツ
5.ラヴ・ミー・ドゥ
6.ヴァーティカル・マン
7.ドリフト・アウェイ
8.アイ・ウォズ・ウォーキン
9.ラ・ディ・ダ
10.ウィズアウト・アンダースタンディング
11.アイル・ビー・ファイン・エニィホエア
12.パペット
13.アイム・ユアーズ
2.ホワット・イン・ザ...ワールド
3.マインドフィールド
4.キング・オブ・ブロークン・ハーツ
5.ラヴ・ミー・ドゥ
6.ヴァーティカル・マン
7.ドリフト・アウェイ
8.アイ・ウォズ・ウォーキン
9.ラ・ディ・ダ
10.ウィズアウト・アンダースタンディング
11.アイル・ビー・ファイン・エニィホエア
12.パペット
13.アイム・ユアーズ
そして攻撃的なドラミング、速いパッセージのフィルが多いのもこのアルバムの特徴。
リンゴのドラムをフィーチャーする意図が明確になっている。
①②③⑥⑨⑩でそうしたプレイが聴ける。なかでも⑥のブレイクやエンディングでは乱れ打ちが聴けるのでこれは必聴。
それでいてリズム感が乱れないこのキープ力。
ドラマーはキープ力あってのフィルなのだ。
そろえられた楽曲もクオリティが高い。
Time Takes Timeでは他のソングライターによる楽曲がほとんどだったが、本作ではリンゴとバンドメンバーとの共作曲に重点を置いているのが違いだ。
このパロディの角度が鋭角的で、ひねってあったり、合わせ技にしていたり。
絶妙に正攻法からハズしていく感じがラトルズのそれなのである。
だからこのアルバムは まるでリンゴ ミーツ ラトルズといえる仕上がり。
⑥なんてI Am The Walrus風というより、ジョージのWhen We Was Fabをパロディにしたような遠回り感があったり。
ちなみに「VH1 Story Tellers」 ではさらにドライヴしたロックンロールになっているので、これも必聴だ。
サイケなのかポップなのかわからない⑩ではリンゴのドラムがGet Backだったり、ソリッドなロック ドラムだったり。
そもそもこの曲にブライアンが参加している理由も、聴けばすぐわかるのだが、なんともユーモアがある。
これらがビートルズな曲に聴かせるためによく使われる手法の代表的なもの。
なぜメロディ性のあるスライドをいれるとビートルズっぽく感じるのだろう。
それはポップな曲にジョージ風のスライドが合うということが70年代のジョージ自身によって証明されたことに端を発する。
My Sweet LordやGive Me Loveでのジョージのスライドはそれほど発明的だったのである。
以降、ビートルズ風の曲、ポップな曲、レゲエなどさまざまなジャンルのミュージシャンのレコードにジョージ風のスライドが足されることになる。
事実、それによってビートルズっぽくはなっていない。
あくまで特徴的な音色でのサウンドメイクにとどまっている。
Boz Scaggs Silk Degrees 1976
Love Me Tomorrowの間奏でジョージ ハリスンなスライドが聴ける。
Silver
Wham Bam Shang-A-Lang 1976
イントロ、間奏でもろにジョージ ハリスンを模したスライド ギターが登場。
ではVertical Manが特別なわけは何か。
元ビートルズのリンゴが演奏すると、その独特のタイム感からビートルズなフィールが出るわけで、そこにジョージっぽいスライドをのせるとアンソロジーでのビートルズなスライドがリンクされ、そのビートルズっぽさが別格になるのだ。
おなじスライド手法を使っているのにビートルズっぽさがあまり感じられないジェリーフィッシュのI NEED LOVEと本作の②を聴き比べると、リンゴのドラムがビートルズ サウンドの大きな要素だったことが明瞭である。
ジョージ ハリスン風のスライドも
I Need Love と②では趣きがまったく異なる。前者は表面的なジョージ ハリスン風スライドにとどまっている。
I Need Loveはマニアが好みそうないい曲であることに変わりはないが。
ジェリーフィッシュ I Need Love収録
Spilt Milk Dlx Edition
1993年発表
そんなラトルズ的アルバムにポールとジョージがそろって参加している。
なおVertical Manは2曲の決定的な名曲が入っているのも強み。
それは①と⑨。
演奏面ではリンゴのドラムも素晴らしく、随所に決めた小気味よいフィルが秀逸。間奏に入る手前でブレイクがあり、そのブレイクを打ち破って切り込んでくるフィルの音、タイミングがリンゴスターそのもの。
Drive My Carのイントロをおもいださせるプレイだ。
⑨は一聴すると気楽な応援歌のようだが、吟味すると歌詞がリンゴの人生訓のようにおもえる。エンディングの大合唱は感動モノ。
先述したアウトロのHey Judeなドラミングもすばらしい。
リンゴのタイム感はあのときから変わっていないことに気付かされる。
本作のプロデュースはマーク ハドソンとリンゴ。
ここから数作マークとの共同制作が続くことになるが、どれも少々情報過多ではある。
あと何曲かカットしていれば、アルバムのまとまりがよくなって、印象はまたちがったものになっていただろうに、そこが惜しい。
一方でマーク ハドソンのよかった面としては、
ポップなロックンロール アルバムとしてうまく仕上げたこと、
グルーヴィーにうねるベースを演奏し、楽曲に魅力をそえたこと、などだろう。
見過ごされているけれど、このベースはとてもいい演奏だ。
総論
本作はすこしとっ散らかった感があるとはいえ、まちがいなく「RINGO」に比肩しうる傑作。
リンゴはジョンな曲、ポールっぽい曲、ジョージ風な曲、どれにでも個性がハマる。
おわり