他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース ベスト盤を買うなら絶対これ。

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Huey Lewis & The News /Huey Lewis & The News  1996

実はこれがヒューイ・ルイス&ザ・ ニュースのベスト盤の中で最高音質。

数ある彼らのベスト盤の中でもっとも見過ごされているが、これがかれらのベスト盤のなかで一番いい音。

そしてたんなるベスト盤ではない。

曲目、音質ともに現状このベスト盤が最良なのだ。

1. The Heart of Rock & Roll - 5:04 
2. Heart and Soul - 4:12 

3. Doing It All for My Baby - 3:37 
4. Do You Believe in Love - 3:28 
5. Trouble in Paradise - 4:32
6. The Power of Love [From Back to the Future] - 3:54 
7. If This Is It - 3:52 
8. Bad Is Bad - 3:47
9. Workin' for a Livin' - 2:39 
10. It's Alright - 3:04 
11. Stuck with You - 4:26 
12. I Want a New Drug - 4:45 
13. 100 Years from Now - 3:46
14. So Little Kindness - 4:14
15. 'Til the Day After - 3:27
16. When the Time Has Come - 4:26

 

本作はかれらがワーナー系のエレクトラに移籍して発表したベストである。当時の彼らの新曲4曲も収録されている。

なにが特別かというと、ほとんどの曲をバンドが再プロデュースしている点だ。

よって音の鳴りがほかのベストやオリジナルアルバムと全然ちがう。

ロウなパワー全開のガッツあふれるサウンドにマスタリングされていて、まさに隠れ名ベスト盤なのである。

特にMario Cipollinaのベース、Bill Gibsonのドラムスのマスタリングが秀逸。

聴いたときはだれがどんなマスタリングしたんだろう!?と感激したのを覚えている。

この音が96年なんだから、おどろき。

イイ音って具体的には?と聞かれれば、このアルバムの音はサイコーにカッコイイ音。

低音の深みがすばらしく、③のイントロのピアノの低音がゴロゴロっと鳴る瞬間には感動する。

中音、高音のシャープさもとびきり絶品。

2006年リマスター、2008年リマスターを聴いているひとはぜひ聴いてみてほしい。

この音で聴くPower Of Love が現状この曲のベストサウンド、べストマスタリングだ。

Hip To Be Square が収録されていないのが惜しい点。

この音でマスタリングしていたら、ベストテイクだったろう。

ただこのベスト盤はそうした選曲、曲順をバンドが吟味し、そこに新曲を4曲追加、そしてサウンドも新たにするなどオリジナルアルバムのような風合いを呈しているのが魅力。

既発のヒット曲からどれを選ぶかにも、しっかりとしたテーマを感じ取ることができる。

つまりバンド監修のベスト盤。

ちなみにPower Of Loveを中盤に、I WANT A NEW DRUGを既発曲の最後に置いているなど、曲順を決める際には当時のかれらのライヴでの曲順を意識しているのもただのベスト盤とは異なる点だ。

新曲4曲の仕上がりもとても良い。

洗練されたソウル風味溢れる4曲で、さわやかなベイエリアの香りがただようのがいかにもヒューイ・ルイス&ザ・ニュースだ。

このうち1曲So Little Kindnessはのちのアルバム Plan Bで追加レコーディングした形で収められる。

 

こんな技ありベストを製作したのはかれらがワーナー系のエレクトラに移籍したことによる。

エレクトラに行ってからバンドが最初にリリースしたのはソウルやリズム&ブルーズのカヴァーアルバムだった。

おそらくかれらのファンの多くはこうしたマニアックなアルバムは望むところではなかっただろう。

このバンドの実の姿はリズム&ブルースやソウルを主体とするものだが、それをわかっているファンは今も昔も少数派。

レコード会社もオリジナルアルバムを望んだのだが、バンド側がカバーアルバムを強く希望した結果のリリースだった。

それなりにヒットはしたが、80年代のヒット度合いとは程遠い結果となる。

ただし すばらしいカヴァーアルバムで、かれらの最高作のひとつだ。

なぜかれらは起死回生を狙わず、ビンテージサウンドなカヴァーアルバムを制作したのか。

 

80年代最後のアルバムとなったSmall Worldはもうひとつメロディに冴えもなく、社会問題を扱った曲もバンドのカラーに合わずでチャートは11位止まりとなる。

それまで在籍したクリサリスレコーズがEMIに売却されたことで91年のHard at PlayはEMIに移籍という形でリリースされたが、セールスは前作を下回る結果に。

なんとかヒットを出そうと外部のソングライターの曲を多く採用し、90年代の流行りのサウンドに大きく身を寄せ、これまでのセルフプロデュースからファーストアルバムをプロデュースしたビル・シュネーに再びプロデュースを委ねるなどの試みはあったものの失敗におわる。

ここからみてとれるのは当時の彼らはメロディのいい曲をつくりだせなかったということ。

また時代の変遷の中、音楽に求められる現代感も変わり、その新たな現代感をうまく取り込めなかったという二点だ。

そうした中でかれらはエレクトラに移籍し、カヴァーアルバムをリリースする。

オリジナルアルバムで勝負したくても現代感をとりこまなくてはいけない。

クオリティの高いオリジナル曲、ヒットを狙えるカヴァーや外部ライターの曲をそろえられるのか。

これらの障壁を除くにはビンテージサウンドでのカヴァーアルバムという企画盤しかなかったのだ。

現代的なサウンドにしないというコンセプトを掲げれば90年代的なサウンドにしなくても済む。

オリジナル曲を用意するというリスクも回避できる。

なによりかれらは純粋に好きな音楽がやりたかったのかもしれない。

シブい選曲、ハツラツとした演奏など、実力がないとできないアルバムなのだが、理解者が少なかった。

おそらくはワーナー側から契約を切られたのだろう。

この後オリジナルアルバムは制作されず、かわりにベスト盤がリリースされることになる。

だが92年にクリサリスからすでにベスト盤が出ているので、なにか変化をつけなければならない。

そこで既発曲の再プロデュースを施し、新曲を加えたのだ。

このベストがバンドの芯を抽出する意図で編まれた玄人好みの1枚になったのもこうした流れがあった。

このアルバムと上に書いたカヴァーアルバムを聴いたことがないひとは、つづけて聴いてみるとたしかな連続性を感じるとおもう。

そしてなぜ、このベストがこうしたサウンドで、こうした選曲なのかも得心がいく。

ある意味、二部作なのだ。

ベストに収められた新曲はどれも洗練されたソウルっぽさを持つナンバーで、こうした曲が作れるようになったのは先のカヴァーアルバムを通過したからこそ。

この源流のソウル路線がアルバムPlan Bにつながっていく。ここでは全編ソウルテイストあふれるクオリティの高いオリジナル曲がそろっており、必聴だ。

アルバムSmall Worldから曲の出来が停滞していたかれらにとってカヴァーは曲作りに置いて改めて学びの機会となったということなのだろう。

 

本盤はかれらのルーツであるブラックミュージックを意識したかなり黒っぽいベスト盤。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの名盤として挙げたい1枚だ。

ちなみにマスタリングはBob Ludwig!

サスガ、音がちがうぜ〜!

 

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おわり