他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース| ベイ・エリアの風 アルバムガイド

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邦題「ベイエリアの風」は1982リリースのヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのセカンドアルバム。

まだ二作目であるにもかかわらずバンドのセルフプロデュースを決行、全米13位を記録し、

バンドにとって初のヒット作となった。

シングルとしてもDo You Believe In Love が米7位、

Workin For A Livin'が米41位、

Hope You Love Me Like You Say You Doが米36位。

当時はいかにラジオでシングルをかけてもらえるかがヒットするかしないかの基準だったので、とにかくラジオフレンドリーな曲が必要だったとのちにヒューイが語っている。

そこでロバート・ジョン・マット・ランジ作のDo You Believe In Love(もとはスーパーチャージのWe Both Believe In Loveで、ヒューイたちが歌詞を変えてカバー)やウェット・ウィリーのマイク・デューク作のHope You Love Me Like Say You Doといった曲を取り上げている。

ヒットシングルを生むのに必死だったバンドの姿が浮かんでくるが、本作はそうしたカバーだけではなく、バンドのオリジナルナンバーのクオリティが高いのがなによりの魅力。

キャッチーでメロディのまとまりが良い曲が揃えられたポップロックの名盤だ。

陽光と潮風を感じるさわやかなサウンド、ハードだけれど重くなく、すっきりとした炭酸のような演奏も人懐っこく、まるでビバリーヒルズ高校白書サウンドトラックかとおもうようなたたずまい。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースはもとはカントリーロックとR&Bを並列で演奏するCloverというバンドが母体。

かれらは英国で活動していた時期があり、カントリーとR&Bというバンドの個性がパブロックの音楽要素と合致した経緯がある。

その後、米国にもどりCloverで一緒だったヒューイとショーン・ホッパーがクリス・ヘイズ、ジョニー・コーラ、ビル・ギブソンにマリオ・チポリナをメンバーに加えてヒューイ・ルイス&ザ・ニュースを結成するわけだが、こうした背景からヒューイ・ルイス&ザ・ニュースにはパブロック的な庶民的大衆性が備わっていたのだった。

特筆すべきなのはファーストアルバムとセカンドアルバムを制作した時期のかれらはそうしたバンドの個性にニューウェーブ的な色彩も加え持っていた点である。

そう考えるとヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとザ・カーズは同じ資質のバンドなのだ。

 

ファーストではそのニューウェーブ色が特に強く異彩を放つのに対し、セカンドではニューウェーブ色が後退し、ポップロックの中に隠し味として紛れている。

狙いだったのか結果がそうなっただけなのかはわからないが、本作の巧妙な部分である。

そこにドゥーワップを現代的にしたさわやかなコーラスやジャズっぽいサックスなど50年代のアメリカンミュージックの要素をブレンド

シン・リジィのフィル・ライノット作Tatoo(Giving It All Up  For Love)のカバーはその代表例であり、まさしく本作のハイライトトラックだ。

ヒューイの明るく乾いたハーモニカの音がカリフォルニアの青い空をおもわせる。

そのほかにもすこしブライアン・イーノのNeedles In The Camel's EyeっぽいChange Of Heartやブルース・ブラザーズで馴染みのジョン・ベルーシに向けたThe Only Oneなどのストレートなロックナンバー。

ホール&オーツがやっても似合いそうなWhatever Happened To True Loveでのブルー・アイド・ソウル

ザ・ポリスがやりそうなTell Me A Little Lie、ヒューイのブルースハープがブロウするパブロックなWorkin For A Livin'、

ヴェールのようなコーラスとコール&レスポンスが麗しいHope You Love Me Like You Say You Do、

コーラス、間奏が最高に素敵なDo You Believe In Love、

めずらしくしっとりしたバラードIs It Meなど

充実の楽曲が並んでいる。

そしてドゥーワップのカバーBuzz Buzz Buzzでにぎやかにアルバムはおわる。

こうしたオールドナンバーが違和感なく収まるのも先に述べたドゥーワップコーラスなどの50年代テイストをバンドが持ち味としているからだ。

Do You Believe In Loveでは元歌からタイトルと歌詞を変えてヒットさせたり、Hope You Love Me Like You Say You Doのようないい曲をみつけてきたり、この時期のかれらはヒットの直感が冴え渡っていたのだろう。

それが次作Sportsにつながっていく。

 

Sports以降のかれらはいかにもアメリカンバンドといった風情を持つに至るのだが、

ファーストアルバムとこのセカンドアルバムではどこか英国的なセンスも感じる。

それは英国で演奏していたころの名残なのかもしれないが、この雰囲気は本作を最後に消えてしまう。

大ヒットを飛ばす世界的アメリカンバンドになったSports以降のかれらも素晴らしいけれど、

そうなる前のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのたたずまいもとても魅力的だ。

トップ10ヒットはDo You Believe In Loveだけの時期のライヴ音源を聴けばわかるが、Sports以降のライヴと変わらない白熱のテンションで演奏され、オーディエンスが大盛り上がりなのがバンドの叩き上げの実力を示す。

そこで演奏されていたのはファーストと本作セカンドアルバムからの楽曲。

かれらはもしヒット曲がなくても音楽ファンから愛されたにちがいない。

本作ラストのBuzz Buzz Buzzではかれらのそうした等身大の魅力を疑似体験できる。

それにしても邦題の「ベイエリアの風」はアルバムの内容やサウンドから感じる印象をうまく言葉に置き換えた名題だ。

Hope You Love Me Like You Say You Doを聴くたびにベイエリアの風が吹いてくる。

ベイ・エリアの風 試聴

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