沢田研二 1984年のアルバムNon Policy収録のクリス・レア作SMILE。
この曲はクリス・レアがジl沢田研二に書き下ろした曲なのだろうか?と疑問におもったことはないだろうか。
そこで沢田研二はどういう経緯でスマイルをうたうことになったのか。
SMILEという曲の出自を探る。
まずは作者クリス・レアのキャリアを追ってみよう。
クリス・レアは1974年にシングルSo Much Loveでマグネットレコーズからデビューする。
しかしこのシングルはうまくいかなかったようだ。
次のリリースはないままクリスは業界を去る。
その後はさまざまな仕事をしながら、クラブで歌うなど音楽活動をなんとか続けていた。
そんな中再びマグネットから再デビューの機会を得る。
エルトン・ジョンのプロデュースを手がけたガス・ダッジョンが制作を担当することになり、1978年にシングルFool(If You Think It's Over)、What Happened To Benny Santini?をリリース。
特にFoolはAORファン、フリーソウルファンにもおなじみの名曲。
沢田研二もパーティーのあとでというタイトルでカヴァーしている。
今回はシングルもヒットを記録、
これらシングルを収録したデビューアルバムもヒットし、米国でも話題となった。
波にのってのセカンドアルバムといきたいところだったが、リリースに際して米国での配給を担当したユナイテッドアーティスツの経営がうまくいっていなかった。
これがセールスにも影響し、このセカンドアルバムはファーストアルバムほど話題にならず。
ユナイテッドアーティスツはその後倒産している。
このあたりボビー・コールドウェルのセカンドアルバムの顛末とよく似ている。
こうしたこともあったからなのかクリス・レアは米国進出をしないという決断に至り、英国での活動に専念する。
ただその後コンスタントにアルバムをリリースするもセールスは上がらない。
そんなクリス・レアは自らのパーマネントバンドを持つことができず、ツアーもままならなかったようだ。
そして次のアルバムのためのスタジオデモをほぼひとりで制作したクリスはそれをレコード会社に渡す。
クリスとしては当然ミュージシャンたちとスタジオで本レコーディングに入るつもりだっただろう。
が、レコード会社が下した判断は、そのデモをそのままリリースするというものだった。
出来が良かったからとも言えるし、売れないクリスのアルバムにわざわざ予算を出して正式にレコーディングする必要はないとの考えだったかもしれない。
どちらにしてもウォーターサイン(危険水域)という意味ありげなタイトルを名付けられたこのアルバムは1983年にリリースされる。
ところがなんとこれがアイルランドで大ヒット。チャート1位を記録するのだ。
人生の皮肉というのかなんというのか、つくづくわからないものである。
ウォーターサインはヨーロッパ諸国でもヒットを記録し、クリスにとってデビュー作以来のヒット、それもビッグヒットとなった。
これでレコード会社としては売り上げを伸ばすためクリスにツアーをすることを促し、バンドを持ったクリスはアイルランドをはじめツアーに乗り出すことになる。
このウォーターサインからクリス・レアの快進撃がはじまり、そしてクリスは英国のロックスターに登り詰めるのである。
そんなウォーターサインからのシングルLOVE'S STRANGE WAYSのB面にSMILEはひっそりと収められていた。
つまりSMILEは1983年が初出なのだ。
しかしその後1988年にクリスマスEPに再度収録されたので、88年リリースの曲と認識されることが多い。
こうした状況からSMILEは84年に沢田研二へ提供され、クリス・レアがのちの88年にセルフカヴァーしたのか?とおもうひともいるのだろう。
しかし実際は提供曲ではなくカヴァーなのである。
それにしてもSMILEが83年リリースで、沢田研二がカヴァーしたのが84年。
なかなかタイムリーなカヴァーである。
しかもクリスのキャリアを上でみたように、クリスが波にのったのは83年から。
当時のクリス・レアはまだ日本でも知名度が高かったとは思えず、それもシングルB面のみに収録された曲をとりあげるとは、かなりマニアック。
Foolをカヴァーしていることからも、沢田研二はクリス・レアが好きなのではないかと思える。
Foolは米国でヒットしたことから、日本でも話題になった。
沢田研二はそのときクリス・レアに興味を持ち、その後のシングルやレコードをチェックしていて、それがSMILEとの出会いだったのかもしれない。
以下、SMILEが聴けるアルバムとSMILEと同傾向のクリス・レアの名曲をいくつか。
1. SMILE
哀愁に溢れたヴァース、日本人好みの中間部のメロディ。
2時間ドラマのエンディングでかかりそうな
大人のラヴ・バラードだ。
ダンシング・ウィズ・ストレンジャーズ
リマスター2枚組に収録
ERA 1 1978-1984
こちらもリマスター音源で収録
2. LOVE'S STRANGE WAYS
マイナーキー、アコースティックギターの音色。
間奏のアコースティックギターのソロにヨーロピアンなロマンティシズムが香る。
ウォーターサインに収録
ERA 1 1978-1984に収録 リマスター音源
3. CANDLES
哀しげなキーボードのリフレイン、これも中間部に日本人好みのメロディアスなパートを含む。マイナーキーのポップな作品。
クリス・レアの代表的な楽曲だ。
ウォーターサインに収録
NEW LIGHT THROUGH OLD WINDOWS
この新録ベストにはリメイク版が収録されている。
THE JOURNEY 1978-2009
このベスト盤にも上記のリメイク版が収録されている。
ただこのリメイク版のアレンジはオリジナル版とそう大きくは変わらない。クリスにとってはデモ音源のままリリースされたこの曲をミュージシャンたちと正規にレコーディングするのは一種の通過儀礼だったのだろう。
もちろんサウンドの質感は異なっている。
どちらの出来もハイグレードだ。
4. TRUE LOVE
ミッドナイト・ラヴソングとでも呼べそうな
ロマンティックでアーバンな1曲で、
AOR好きは必聴。
ミディアムテンポにおもわず体がゆれるフロアチューン。
これもクリス・レアの隠れた名曲。
セクシーなビターヴォイスがたまらない。
ERA 1 1978-1984に収録 リマスター音源
5. BITTER SWEET
ジャジーなピアノに導かれての名バラード。
クリスのまさにビター・スウィートなヴォーカルが聴ける。
夜に合う1曲だ。
ERA 1 1978-1984に収録 リマスター音源
6. AUF IMMER UND EWIG
ブルージーなギターと哀切なヴォーカル、孤独を感じるサウンド。
硬派なAORバラード。風の街といった風情。
ドイツではかなり知られた曲のようだ。
オン・ザ・ビーチに収録。オン・ザ・ビーチは2枚組のリマスター盤もある。
ERA 1 1978-1984にはシングルB面ヴァージョンが収録 リマスター音源
7. SANDWRITING
年輪を重ねた声で歌われる追憶のバラードといったところだろう。
少ない音でじっくりと歌い込んでいくヴァースからトロピカルな中間部につながる展開が最高だ。
過ぎ去ったあの日の夏に想いを馳せるサマーソング。
キング・オブ・ザ・ビーチに収録。
8. SOMETIMES
地中海や南の島の海辺をおもわせるリゾート・サウンドが麗しい。
訥々としたヴォーカルにのる哀感が風に運ばれて海の向こうへ消えていく。
人生の苦みを含んだラヴ・バラード。
BLUE GUITARSに収録
FOOL IF YOU THINK IT'S OVER -THE DEFINITIVE GREATEST HITSに収録
ということでクリス・レアの名曲を厳選して並べてみた。
SMILEでクリス・レアを知ったひとはぜひお試しあれ。
おわり