他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース| ベイ・エリアの風 アルバムガイド

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邦題「ベイエリアの風」は1982リリースのヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのセカンドアルバム。

まだ二作目であるにもかかわらずバンドのセルフプロデュースを決行、全米13位を記録し、

バンドにとって初のヒット作となった。

シングルとしてもDo You Believe In Love が米7位、

Workin For A Livin'が米41位、

Hope You Love Me Like You Say You Doが米36位。

当時はいかにラジオでシングルをかけてもらえるかがヒットするかしないかの基準だったので、とにかくラジオフレンドリーな曲が必要だったとのちにヒューイが語っている。

そこでロバート・ジョン・マット・ランジ作のDo You Believe In Love(もとはスーパーチャージのWe Both Believe In Loveで、ヒューイたちが歌詞を変えてカバー)やウェット・ウィリーのマイク・デューク作のHope You Love Me Like Say You Doといった曲を取り上げている。

ヒットシングルを生むのに必死だったバンドの姿が浮かんでくるが、本作はそうしたカバーだけではなく、バンドのオリジナルナンバーのクオリティが高いのがなによりの魅力。

キャッチーでメロディのまとまりが良い曲が揃えられたポップロックの名盤だ。

陽光と潮風を感じるさわやかなサウンド、ハードだけれど重くなく、すっきりとした炭酸のような演奏も人懐っこく、まるでビバリーヒルズ高校白書サウンドトラックかとおもうようなたたずまい。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースはもとはカントリーロックとR&Bを並列で演奏するCloverというバンドが母体。

かれらは英国で活動していた時期があり、カントリーとR&Bというバンドの個性がパブロックの音楽要素と合致した経緯がある。

その後、米国にもどりCloverで一緒だったヒューイとショーン・ホッパーがクリス・ヘイズ、ジョニー・コーラ、ビル・ギブソンにマリオ・チポリナをメンバーに加えてヒューイ・ルイス&ザ・ニュースを結成するわけだが、こうした背景からヒューイ・ルイス&ザ・ニュースにはパブロック的な庶民的大衆性が備わっていたのだった。

特筆すべきなのはファーストアルバムとセカンドアルバムを制作した時期のかれらはそうしたバンドの個性にニューウェーブ的な色彩も加え持っていた点である。

そう考えるとヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとザ・カーズは同じ資質のバンドなのだ。

 

ファーストではそのニューウェーブ色が特に強く異彩を放つのに対し、セカンドではニューウェーブ色が後退し、ポップロックの中に隠し味として紛れている。

狙いだったのか結果がそうなっただけなのかはわからないが、本作の巧妙な部分である。

そこにドゥーワップを現代的にしたさわやかなコーラスやジャズっぽいサックスなど50年代のアメリカンミュージックの要素をブレンド

シン・リジィのフィル・ライノット作Tatoo(Giving It All Up  For Love)のカバーはその代表例であり、まさしく本作のハイライトトラックだ。

ヒューイの明るく乾いたハーモニカの音がカリフォルニアの青い空をおもわせる。

そのほかにもすこしブライアン・イーノのNeedles In The Camel's EyeっぽいChange Of Heartやブルース・ブラザーズで馴染みのジョン・ベルーシに向けたThe Only Oneなどのストレートなロックナンバー。

ホール&オーツがやっても似合いそうなWhatever Happened To True Loveでのブルー・アイド・ソウル

ザ・ポリスがやりそうなTell Me A Little Lie、ヒューイのブルースハープがブロウするパブロックなWorkin For A Livin'、

ヴェールのようなコーラスとコール&レスポンスが麗しいHope You Love Me Like You Say You Do、

コーラス、間奏が最高に素敵なDo You Believe In Love、

めずらしくしっとりしたバラードIs It Meなど

充実の楽曲が並んでいる。

そしてドゥーワップのカバーBuzz Buzz Buzzでにぎやかにアルバムはおわる。

こうしたオールドナンバーが違和感なく収まるのも先に述べたドゥーワップコーラスなどの50年代テイストをバンドが持ち味としているからだ。

Do You Believe In Loveでは元歌からタイトルと歌詞を変えてヒットさせたり、Hope You Love Me Like You Say You Doのようないい曲をみつけてきたり、この時期のかれらはヒットの直感が冴え渡っていたのだろう。

それが次作Sportsにつながっていく。

 

Sports以降のかれらはいかにもアメリカンバンドといった風情を持つに至るのだが、

ファーストアルバムとこのセカンドアルバムではどこか英国的なセンスも感じる。

それは英国で演奏していたころの名残なのかもしれないが、この雰囲気は本作を最後に消えてしまう。

大ヒットを飛ばす世界的アメリカンバンドになったSports以降のかれらも素晴らしいけれど、

そうなる前のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのたたずまいもとても魅力的だ。

トップ10ヒットはDo You Believe In Loveだけの時期のライヴ音源を聴けばわかるが、Sports以降のライヴと変わらない白熱のテンションで演奏され、オーディエンスが大盛り上がりなのがバンドの叩き上げの実力を示す。

そこで演奏されていたのはファーストと本作セカンドアルバムからの楽曲。

かれらはもしヒット曲がなくても音楽ファンから愛されたにちがいない。

本作ラストのBuzz Buzz Buzzではかれらのそうした等身大の魅力を疑似体験できる。

それにしても邦題の「ベイエリアの風」はアルバムの内容やサウンドから感じる印象をうまく言葉に置き換えた名題だ。

Hope You Love Me Like You Say You Doを聴くたびにベイエリアの風が吹いてくる。

ベイ・エリアの風 試聴

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Huey Lewis & The News/Picture This: ベイ エリアの風 + 3 (Ltd)(Uhqcd(Mqa))

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ボビー・コールドウェル | クール・アンクル アルバムガイド

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ボビー・コールドウェルがジャック・スプラッシュと組んだユニットとしてリリースした2015年のアルバム 「クール・アンクル」。

図らずもこれがコールドウェルの遺作となってしまった。

コールドウェルのヴォーカルが全面的にフィーチャーされていることからボビー・コールドウェルのソロアルバムのひとつとしての側面を見出すこともできる作品である。

 

打ち込みを多用しクラブミュージックの要素を持つ現代的なサウンド

同時にアーバンな夜の雰囲気を感じるそれはコールドウェルのTK時代のアルバムを思い起こさせる。

実際、収録曲のいくつかはコールドウェルのTK時代の二作、特にファーストアルバムの質感を強く意識したものだ。

これはジャック・スプラッシュによる意図したものだろう。

グルーヴィーなベースギター、ホーンの使い方、夜風が運んでくるようなキーボードはまさしくファーストアルバム「イヴニング・スキャンダル」のサウンドプロダクション。

おもわずジャケットのビッグムーンに映し出されるボビーのシルエットがよぎる。

中でも3曲目のBreaking Upや7曲目のEmbrace The Night、ラストトラックのOutroなんてそれこそファーストアルバムに収録されていてもなんの違和感もない曲であるし、トロピカルでダンサブルなMiami Nightsも往年のボビー・コールドウェルをおもわせるこれぞ!の一曲。

4曲目のNever Knew Love Beforeもリズミックなビートに麗しのヴォーカルが乗る名曲。

ここでのシンセサイザーはファーストアルバム収録のCan't Say Goodbyeで聴けるあの音である。

時が戻ったような錯覚に陥る。

6曲目のDestinyでは踊るホーン、Yeah Yeah とボビーがフェイクする時の声が素晴らしく、こちらもまるで70年代のレコードを聴いているようなビンテージなフィーリングが最高だ。

 

ジャック・スプラッシュはコールドウェルに影響を受けていたという背景を持つひとなので、現代的なサウンドにボビーの良さを立たせるにはどうするべきかをしっかりと読み取れたのだろう。

洗練されたR&B的なサウンド、強力なビートはボビー・コールドウェルと実に相性がいい。

コールドウェルのヴォーカルもハリがあり、やはりこうしたビートの強調された曲で聴かせる黒っぽい声が真骨頂だと再確認。

おもえば長い間、コールドウェルのこうした黒いヴォーカルは聴けなかったようにおもう。

Perfect Island NightsやHouse Of Cardsはいい作品であったし、そこでのヴォーカルはどれもスムース、時にクルーナーでやわらかく、快活な響きを持つものだった。

けれどファーストアルバムでのあのハリと黒くソウルフルな声はなかった。

本作「クール・アンクル」が特別な作品になったのは各トラックの素晴らしさがコールドウェルの黒いヴォーカルを引き出した点にある。

実にエモーショナルでR&B的なアルバムだ。

そこにブルーな影をそっと落としていくところがボビー・コールドウェルの美学であり、これはロイ・オービソンとも通じる部分だろう。

 

本作ラストのOutroは先述のようにファーストアルバムに入っていそうなAOR

これぞボビー・コールドウェルと呼びたくなるセンチメンタルな旋律。

ボビーが亡くなった今となっては曲が終わったあとの余韻があまりに切ない。

キャリアの最後を飾る曲がファーストアルバムの頃に戻ったような曲であるというのは、ボビーの音楽人生は一周した、ということか。

そう思うとなんとも感慨深く、そしてさみしさも募る。

けれどキャリアの最終アルバムがこうした素晴らしい作品だったことはコールドウェルが真摯に音楽に取り組んできたからこその結果だ。

 

本作はボビーのファンはもちろん、幅広い音楽ファンにレコメンドできる作品であることを聴き手に証明してくれる。

現代的なプロダクションにボビーの往年の作風をブレンドしたロマンティシズムに溢れるアルバムだ。

クール・アンクル 試聴

 

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クール・アンクル [K2HD HQCD]

 

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Cool Uncle (Bobby Caldwell / Jack Splash)/Cool Uncle

 

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おわり

ジョージ・ハリスン アルバムごとのギタープレイと名盤ガイド

ジョージ・ハリスンの名盤をジャンルに分けてピンポイントにレコメンド。

各アルバムごとのギタープレイも解説。

手早く読めるジョージ・ハリスンのアルバムガイド。

 

ジョージ ハリスンの英国ロック

EXTRA TEXTURE (READ ALL ABOUT IT) 

75年

洗練されたソウル風味の楽曲、重厚なバラード、気怠くブルーな曲、風変わりなアップナンバーが揃うが、本作はなによりそのくすんだような色彩が特徴のサウンドアルバムだ。

そしてそのサウンドこそに英国ロックを感じるのである。

とは言え、本作のレコーディングはロスアンジェルス。しかも多くのアメリカ人ミュージシャンが参加してのもの。

それでいてこの英国感はすごい。ジョージの英国におけるフライアーパーク・スタジオでのサウンドをおもわせる荘厳な響きだ。

ジョージのプロデューサーとしての手腕、サウンドメーカーとしての力量、なによりよく地味と評されるジョージがいかに自身の英国人としての感性を主役として発揮しているかが表れている。

ジョージのギタープレイはソロ、スライドともに他アルバムと比して少なく、リズムギターやアンサンブル的なプレイに主眼を置いている。リードはジェシ エド デイヴィスが主に担当し、アルバムとしてはキーボードやホーンが前面に出ている印象。

本作は当時いまひとつ評判がふるわなかったが、それはジョージのギターがあまり前に来ないアルバムだったからともおもえる。

その中でTired Of Midnight Blueでのスライドはレオン ラッセルのピアノとの絡みも素晴らしい名演。This Guitarでのアコースティックギターのタイム感、ショートリックも味のあるプレイだ。

得意のメロディー性のあるアルペジオも聴け、ハリスンらしいプレイは随所にみつけることはできる。

リードギターは少ないものの、それに反してヴォーカルのシャープさはハリスンのキャリア中最高の1枚。

This Guitar(Can't Keep From Crying)はその好例であり、ファルセットを活かした曲、それまで以上にエモーショナルなヴォーカルを聴かせる曲など進化を見せている。

74年には喉を傷めた状態で北米ツアーを敢行しているが、そこで歌い込んだことが大きかったのだろう。

EXTRA TEXTUREはミニ・オール・シングス・マスト・パスとも呼べるサウンドアルバムであり、ヴォーカルアルバムと呼んでもいい作品だ。

米8位 英16位

 

SOMEWHERE IN ENGLAND   81年

こちらはモノクロームでひんやりとした夜気を感じるサウンド、曲も甘いメロディの中に陰りを含んだもので、そのあたりがいかにも英国の抒情をおもわせる。

同時にその陰りはハリスン特有のメロディ感覚、コード感覚でもある。

まさにタイトルとおり英国のさる場所にて、といった風情。

ジョージらしい線の細いスライドギターとエレクトリックギター、メロディックなコードプレイとアルペジオなど、まさしくジョージ ハリスンなギタープレイが全編で聴ける。

繊細なギターサウンドが特徴的なアルバムだ。

アップテンポのナンバーやエルトン ジョン バンドのデイヴィー ジョンストンのようなカッティングを聴かせる曲、カントリー風のナンバー、ホーギー カーマイケル作品のギターオリエンティッドなカバーなどバランスよい配曲も光る。

米11位 英13位

 

 

WONDERWALL MUSIC  68年

ジェーン バーキン主演の同名映画。

そしてジョージ制作によるサウンドトラック盤がこれである。

サイケで妖しくも美しい曲、これぞジョージハリスンなラーガな曲、ダンスホールの伝統、パトゥを思わせるような英国ハードロックがあったりとスウィンギングロンドンな時代の空気が漂ってくる。

曲もメロディがしっかりしたものが揃っており、演奏も充実している。

この映画自体を観たことがなくても楽しめるサウンドトラックだ。

ジョージ ハリスンの英国ロックの名作として語って然るべき1枚である。

米49位

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ジョージ ハリスンの大ヒットアルバム

ALL THINGS MUST PASS  70年

言うまでもなくジョージ ハリスンといえばこれ、の代表的な作品として知られている。

考えてみると元ビートルズの4人ともが解散後に各々の代表的アルバムをつくり、それが今日に至るまでロック名盤として馴染まれているのはとんでもない偉業である。

その中でも70年代ロックアルバムのアイコニックな存在が本作といえよう。

アルバム、シングルともにチャートを席捲し、米国南部ロックと英国の抒情、フィル スペクターの音の壁がジョージの精神世界を荘厳な響きで具現化した畢生の名作。

陰りを含んだ甘いメロディ、詩的なヴォーカル、メロディ弾きのギターが絶品だ。

ジャケットの雰囲気もサウンドの見事なイメージ化である。

ジョージはスライドソロ、エレクトリックギターでのリズムギター、リックとなるアルペジオなど多くギターを弾いているが、エリック クラプトンやデイヴ メイソンらとのコンビネーションによるパート分けも楽しめるのが本作の特徴のひとつだ。

たくさんの楽器が演奏されているアルバムたが、ギターリフを強調したハードなロックンロールナンバーやメロディックなコードフック、何本ものアコースティックギターストロークによるきらびやかなサウンドなど、実はギターアルバムであるのがジョージらしい。

ギターリフが南部ロックっぽい名ロックナンバーWah Wahやメロディックなリフが全編に響くWhat Is Life、高音のスライドギターをフィーチャーしたLet It Down、名曲Isn't It A Pityでの土臭いスライドギターなどジョージのギターワークがいっぱいだ。

シングルMy Sweet Lordのスライドギターサウンドもジョージの発明と言っていい。

繊細なアレンジをデカいサウンドプロダクションで鳴らす、というパラドックスを成立させた歴史的名盤。

米1位 英1位

 

CLOUD NINE  87年

ジェフリンを共同プロデューサーに迎えたポップなロックンロールアルバムだ。

80年代サウンド全開ではなく、あくまでジョージのギターサウンドと昔ながらのロックサウンドに80年代のサウンドを適度にミックスしている点、サクスフォーンが入ったり50'sロックンロールな質感があるのが本作の魅力。

ヒューイ ルイス&ザ ニュースの大ヒットアルバム「スポーツ」に通じるビンテージでクール&ポップなサウンドだ。

そしてメロディアスな曲が揃えられているのもそのサウンドに拍車をかける。

ほとんどがジョージの単独作で何曲かはジェフ リンとの共作になっているが、本作はジョージのメロディメーカーとしての実力をあらためて証明している。

 

演奏面ではダウンストローク中心のアコースティックギターや12弦ギターでのメロディ弾きなどジョージらしさが明確な意図によってフィーチャーされている。

特にスライドギターは曲によってはっきりサウンドを変えているが、これも本作の特徴。

幽玄の響きを聴かせるものから快活なもの、線が細くしなやかなサウンドを聴かせる表題曲でのプレイ、甘くメロディアスなものまでジョージのスライドギターにおける真骨頂をみせてくれる。

エレクトリックギターでもヘヴィなリフを使ったブルージーなロックンロールやバッキングでのコードプレイとアプリガード的に出てくるアルペジオなど、ジョージのらしさがはっきりと聴き取れる。

このあたりはジェフ リンの膳立てによる部分も大きい。

ちなみにジョージはギターリフをつかった名ロックナンバーがいくつかあり、そのひとつが本作収録のWreck Of The Hesperus。

音使いからするとビートルズ時代のHeyBulldogのリフもジョージの考案なのだろうと推測できる。

キース リチャーズほどリフの印象はないジョージだが、意外にも名ギターリフを多く作っているのだ。

 

演奏の魅力に劣らずヴォーカルも甘く、詩的なジョージの声が成熟した若さをたずさえ、ロックの躍動を感じさせてくれる。

ラヴソングが主体なのもジョージの声の魅力を引き出している。

前作にあたるGONE TROPPOは内容はよかったもののチャートでふるわず、本作は約5年ぶりの作品となったが、シングル、アルバムともにセンセーショナルなヒットを記録。

華々しい復活となった。

本作はビートルズっぽさも含むことからジョージのディスコグラフィーの中でもとりわけ人気盤だが、結果的に本作の成功がトラヴェリングウィルベリーズに、そしてジャパンツアーにつながっていく。

米8位 英10位

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ジョージ ハリスンの世界

LIVING IN THE MATERIAL WORLD  73年

セルフプロデュース、少数精鋭で臨んだソロ2作目。

奥行きのあるやわらかなモノクロームサウンドに甘くブルージーなスライドギターがたゆたう。

ギターにゲストプレーヤーを招かず、ジョージがすべてのギターを演奏したことから他のギタープレーヤーとのコンビネーションは当然ないわけだが、その分ジョージ自身のアコースティックギターのタイム感、その上に乗る甘くブルージーなスライドを聴くことができる。

70年代初期は米国南部ロックがシーンのトレンドだったこともあり、本作でのジョージのスライドには、ほのかに土臭さが香る。

またバラードナンバーではエフェクトをかけたエレクトリックギターの幻惑的サウンドもすばらしく、サウンドメーカー ジョージ ハリスンの感性が息づく。

THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLDでの甘いスライドソロはハリスンのソロ屈指の名演であるし、THAT IS ALLのギターサウンド、後半のショートソロも最高作のひとつ。

米1位を記録したシングルGive Me Loveでのアコースティックギターの響き、はずむようなスライドギターもジョージの音だとすぐわかるほどに特徴的。

本アルバムはスライドギターのサウンドがハリスンのソロ作品の中でもっともすばらしいと感じる。

ダウンストローク中心のアコースティックギター、BE HERE NOWでのメロディ弾き、THE DAY THE WORLD GETS AROUNDでの低音弦のショートリックなど、アコースティックギターの名プレイも多い作品だ。

Sue Me Sue You Bluesでのドブロギターによるブルージーなリフをすこしずつメロディを変えながらのプレイもシンプルながらグルーヴに溢れた演奏だ。

 

歌詞は自身の精神世界の探求とともに俗世間のありかたに対する警鐘と辛口のユーモアが認められるが、ここには理想郷を求める姿はなく、あくまで自身も俗世間に生きるひとりとしての立場からの批評精神が見られる。

ジョン レノンのマインドゲームスとは反対の実存主義的なジョージの一面である。

晩年のデヴィッド ボウイがカバーしたことに溜飲が下がる崩壊の美曲TRY SOME BUY SOMEも収録だが、この曲もまた現実社会の一面に対するジョージの見解だ。

ポップでほのかにブルージー、甘いメロディが光る名作。

米1位 英2位

 

 

Thirty Three & 1/3  76年

こちらもセルフプロデュース。

リズム隊にウィリー ウィークス、アルヴィン テイラーといった黒人ミュージシャンを起用したポップ&ファンキーな76年作だ。

曲自体はポップな楽曲だが、それをファンキーに演奏することでバネの効いたロックサウンドを聴かせる。

ジョージがやりたかったことを存分に展開するアルバムだ。

 

こうしたファンクではない楽曲を黒人ミュージシャンの起用によってファンキーに演奏する方法論はデヴィッド ボウイがLOWやHEROES といったアルバムでも実践したもので、意外な共通点だといえる。

本作でジョージはカラフルでふわりとしたサウンド、弾むリズム、明るく親しみやすいメロディからあたたかなバラードまでを揃え、前作EXTRA TEXTUREとは正反対のサウンドを聴かせる。

音楽的には洗練されたソウル風味を感じる曲と独特なコード進行を聴かせるジョージならではのポップ曲を主体としている。

訴訟問題を皮肉った名ポップTHIS SONG、

夕焼けが見えてきそうなサウンドにほのかにせつないメロディが聴けるPURE SMOKEY、おなじくトワイライトタイムなLEARNING HOW TO LOVE YOU、エレクトロっぽさを含んだポップ曲DEAR ONEなど充実した楽曲が揃う。

このアルバムでもラヴソングが多く、聴きやすい作品となっている。

なお本作でもギターはジョージがひとりで担当している。

スライドギターも冴えを見せ、カントリーブルースを明るくデフォルメしたWOMAN DON'T YOU CRY FOR ME、憂いを含んだメロディがループするCRACKERBOX PALACE 、BEAUTIFUL GIRLでのメロディックなソロなど

ジョージのスライドアルバムとしても上位に来る作品だ。

特にTRUE LOVEでのスライドソロ、オブリガードはこれぞメロディ弾きギタリストと言えるキャリアを代表する名演。

またPURE SMOKEYではエレクトリックギターで押弦でのイントロ、ソロを弾いているが、LET IT BEのソロをおもわせる少しブルージーでメロディックなプレイ。

アコースティックギターストロークやエレクトリックギターのカッティング、やわらかなストロークも味わい深い。

自身が設立したダークホースレコーズからの第一弾。ジョージ入魂の一作。

米11位 英35位

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ジョージ ハリスンのポップな名作

GEORGE HARRISON  79年

エレクトリックギターとアコースティックギター黄金比、明るくあたたかな陽光を感じるサウンド、すばらしいメロディの楽曲が揃った傑作。

前作33&1/3のふわりとした質感とは異なり、輪郭がしっかりとしたクリアーなサウンドが特徴。

LOVE COMES TO EVERYONEやBLOW AWAY、HERE COMES THE MOONといった代表的な楽曲だけでなく、それ以外の曲も最高傑作と呼ぶにふさわしい仕上がり。

特にFASTERはジョージの英国ロック曲として最上位のナンバー。

ノーブルなストリングスに硬質なスライドが絡み、バックではアコースティックギターストロークが抒情をもたらしてくれる逸品だ。

SOFT HEARTED HANAでのオールドなジャズブルースっぽさにはソングライターとしての魅力が詰まっているし、シャンソンっぽいNot Guiltyのアレンジも抜群。

YOUR LOVE IS FOREVERでの天空に昇っていくようなスライドギターは例えようもないすばらしさで、ジョージ ハリスンのギタリストとしての力量を思い知らされる。

プロデュースはラス タイトルマン。

真正面から楽曲の魅力を引き出すオーソドックスなプロデュースはタイトルマンの真骨頂だが、こうしたオーソドックスなプロデュースこそ腕が問われるわけで、本作が傑作になり得たのはジョージの実力はもちろん、タイトルマンのプロデュースも大きな要因だ。

本作でジョージは甘く成熟したヴォーカルを聴かせ、スライドだけでなく、押弦でのソロも名演を残す。

LOVE COMES TO EVERYONEでのメロディアスなソロ、DARK SWEET LADYでのガットギターでのソロなど麗しの旋律だ。

そして曲にぴったりのサウンドをつくっている点もジョージのギタリストとしての偉大なるテクニックである。

リリース当時は大きなヒットにはならなかったが、タイトルに自身の名を冠していることからも、絶対の自信作だったであろうことは疑う余地がない。

邦題は慈愛の輝き。

あたたかな愛を歌った本作にぴったりの響きだ。

ソロ最高傑作に挙げるファンも多い時代を超えた大名盤。

米14位 英39位

 

 

GONE TROPPO  82年

ジャケットに見られる南国のフィーリングが前面に出た陽気な楽しさに溢れるアルバムだ。

本作の特徴としてはジョージ ハリスンの作品中でもっともアップテンポの曲が多く収録されている点がある。

またシンセサイザーを多用しており、

シングルWAKE UP MY LOVEなどシンセサイザーとギターサウンドのバランスが魅力的なアルバムだと言えるだろう。

アコースティックギターの使用がジョージにしては少なく、エレクトリックギターでのバッキングがほとんどであることも特徴的。

なによりスライドギターが冴え渡った1枚であることは本作の絶対的魅力だ。

 

アップナンバーだけでなく、バラードもメロディのいい曲を押さえ、ポップでせつないインストゥルメンタルナンバー、ドゥーワップの楽しいカバーも聴ける。

シンセサイザーヴォコーダーの使用によって、すこしテクノっぽさも感じるポップな1枚だが、リリース時はほとんど宣伝がなされなかったためにヒットしなかったというのが定説。

ジョージ自身も音楽業界に嫌気がさしていたのでなおさら宣伝活動をしなかったというはなしだ。

ただ内容は他のジョージ作品と変わらずレベルが高く、

ジョージ ハリスンの意匠をアルバムのそこかしこに見つけることができる。

UNKNOWN DELIGHTで風変わりなコード進行に甘いメロディを乗せ、ビートルズ時代のSOMETHINGを意図的になぞった出だしの長いソロを弾いているが、こうしたセンスはジョンともポールとも異なるジョージのブランドだ。

実際ダークホースレコーズ時代のベスト盤であるTHE BEST OF DARKHORSEはジョージ本人が選曲したものだが、本作からWAKE UP MY LOVE、THAT'S THE WAY IT GOES、GONE TROPPOの3曲を収録している。

ジョージ自身は本作を失敗作とは考えていないのは明白である。

 

唯一わかりかねるのはラストにCIRCLESという重々しい曲を置いている点。

いい曲だがアルバムのカラーに合わない曲調とサウンドでこの曲を収録しなければいけないなんらかの理由(出版社がからんだ事由など)があったとしか思えない。

その一点が惜しいが、それ以外は音楽性の高さをポップに提示した楽しげなジョージ ハリスンに親近感を覚える充実のアルバムだ。

チャートに惑わされてはイケナイ。笑

米108位

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ジョージ ハリスンとオールスターバンド

 

CONCERT FOR BANGLADESH  71年

ジョージのシタールの師ラヴィ シャンカールがバングラデシュの惨状を訴え、ジョージに援助を請うたことから1971年に開催されたチャリティライヴ。

そのライヴ盤である。

厳密にジョージのソロライヴというわけではないが、ジョージがオーガナイザーとして開催したライヴであること、ジョージを中心としたオールスターバンドであることからジョージ ハリスンのディスコグラフィーのひとつとして数えられるのが一般的だ。

ラヴィ一座によるインド音楽の部からはじまるが、どれだけの修練を積めばここまでになれるのだろうと思わせられる寸分の狂いもない演奏。けっこう長い演奏だが、聴きやすいメロディでインド音楽に触れるのにはいい機会となるはずだ。

その後ロックセクションがはじまるが、前述のとおり、ジョージを主役にしたオールスターバンドが大編成のサウンドを聴かせる。

ギターにジョージ、エリック クラプトン、ジェシ エド デイヴィス。

ドラムスにリンゴ スター、ジム ケルトナー。ピアノにリオン ラッセル。

オルガンにはビリー プレストン。

ベースはクラウス フォアマン。

ジム ホーン率いるホーン隊、アコースティックギターとパーカッションにバッドフィンガー、バックコーラスには複数のシンガーが大挙して参加。

これに加えてリオンが歌う場面ではドン プレストンがギターで、カール レイドルがベースで参加する。

本ライヴのサウンドは当時のトレンドでもあった米南部ロックをおもわせるもの。

ジョージはALL THINGS MUST PASSからの曲を中心に演奏しているが、アルバムでのウォール オブ サウンドとの違いが顕著でエッジの効いたロックサウンドを展開する。

ヴォーカル、ギターとともにキレのよいパフォーマンスだ。

特にアツいヴォーカルはジョージのイメージを覆すすばらしいロックヴォーカル。

またバックシンガーたちのゴスペルっぽいコーラスが加わったりすることもあってジョージの演奏曲をはじめ全体的にかなり黒っぽい質感があるのも本作の特徴だ。

Young BloodやJumpin Jack Flashでは南部フィーリングに溢れたロックンロールを聴かせるし、ジョージのBeware Of Darknessでのオリジナルにはないドロッとした質感はROLLING STONESのEXILE ON MAIN STに通じるものがある。

 

そしてこのライヴはなんといっても名場面が多い。

青春映画のエンディングのような高揚感があるビリー プレストンの歌唱シーン、後半のハイライトといえるボブ ディランの登場シーンと神がかったソロパフォーマンス。

ボブの演奏にジョージが土臭いスライドを加えたり、Blowin In The Windでジョージが弾くストラトキャスターでのアルペジオサウンドが曲に見事にハマっていたりと音楽的にも最高の融合を見せる。

ジョージ、ボブ、リオンがマイクに集まってのヴォーカルはまさにロックの歴史的瞬間だ。

ジョージがHere Comes The Sun やSomethingのイントロを弾いた際の歓声、アドリブのソロにも心を奪われる。

本作は映像版もあるのでライヴ盤、DVDの双方で楽しみたい。

ライヴ盤はジョージとフィル スペクターのプロデュース。

ALL THINGS MUST PASSからつながるライヴ盤の傑作。

米2位 英1位

 

 

TRAVELING WILBURYS Vol 1   88年

CLOUD NINEがヒットし、ヨーロッパに向けた12インチシングルが追加され、そのシングルB面用の曲が必要になった。

ジョージはロスアンジェルスでジェフ リンに会い協力を要請、その際ジェフがプロデュースしていたロイ オービソンも同席しており3人でレコーディングに入ることになる。

ジョージはすでに知り合いだったトム ペティの家に置いていたギターを取りに行き、そこでペティにレコーディングのはなしをすると、ペティも参加することに。

レコーディングにはジョージが友人ボブ ディランのスタジオを使えないかとボブに持ちかけ、その結果ボブも参加となる。

出来上がった曲Handle With Careの仕上がりはすばらしく、これがアルバムに発展したのが本作である。

結局Handle With Careは先述のシングルB面には収録されず、本作Vol 1の一曲目を飾ることとなった。

そんなVol 1は気分がうきうきするようなポップなロックンロールアルバムだが、アコースティックギターが全面に出ており、何本も重ねたアコースティックサウンドのきらびやかな響きが最高にキャッチーだ。

それがカントリーっぽさなどアメリカンミュージックの要素を引き出すのだが、ジョージとジェフの英国人2人がいることによりブリティッシュのセンスが入ってくる。

英国的アメリカンロックンロールとも言うべき名盤だ。

5人のアコースティックギターでガンガン刻まれるビートの勢いはウィルベリーズの専売特許。

アコースティックギターがいかにハードなサウンドかをこのアルバムで知ることができる。

その上にエレクトリックギターが乗る古き良きロックンロールの伝統。

サンレコードの様式美をウィルベリーズ流に復権したような音である。

またメンバーそれぞれの持ち味が偏ることなく出ている点も本作がヒットした要因だろう。

ジョージのスライドギター、ロカビリーっぽさを持ったエレクトリックギターでの低音フレーズ。

ボブのハーモニカ、際立つしわがれ声のヴォーカル。

トム ペティの土臭い声はアメリカンロックを体現し、ジェフ リンのマルチプレイヤーとしての存在、ビートルズ直系のメロディセンスがバランスをとる。

そしてロイオービソンの声がどこかブルーでロマンティックな影を映し出す。

独特の声を持った者が合わせることで生まれるコーラスの魅力、メンバー全員でつくる楽曲には互いの個性に対する尊重と自由なアイデアがきらめき、ロックンロールの楽しさを存分に聴かせてくれる。

本作はコーラスも大きくフィーチャーされており、これがバンド感を強く感じる大事な要素となっているが、このあたりのプロデュースは流石。

ジョージとジェフによるこの共同プロデュースはある種Cloud Nineを発展させたものともとれる。

ジョージが中心となって組まれたグループだが、全員がリードヴォーカルをとるビートルズスタイル。

そしてボブの楽しそうなヴォーカルがたくさん聴けるのもいい。

全員が主役のウィルベリー一座である。

数年後には続編も制作され、そちらもヒットを記録する。

スーパーグループによるロックンロールアルバムとして輝き続ける連作だ。

米3位 英16位

 

Carl Perkins&Friends    
BLUE SUEDE SHOES :A ROCKABILLY SESSION  86年

これはイレギュラー的な選盤になるのだが、1985年にロンドンで収録されたロカビリーレジェンド、カール パーキンスを主役としたTVショウ。

デイヴ エドモンズが音楽監督を担当し、エドモンズと交流のある実力派ミュージシャンがハウスバンドを務めた。エドモンズもアコースティックギターで全面参加。

そこに英国勢としてジョージ、リンゴ、エリック クラプトン、米国勢としてロザンヌ キャッシュ、スリム ジム ファントム、リー ロッカー、アール スリックらがゲスト参加。

カール パーキンスの代表的なヒット曲やロカビリークラシックを演奏するライヴなのだが、

中でもジョージが大きく目立っており、ギター、ヴォーカルともにハツラツとしたパフォーマンスを見せている。

ビートルズ時代の持ち歌Everyboy's Trying To Be My Babyでは変わらぬヴォーカルとギターソロを聴かせ、1本のマイクでエドモンズとコーラスを担うYour True Loveでの姿はビートルズの頃に戻ったようで心がときめく。

またYour True Loveではソロも二回弾いているが、ここでのギター少年な笑顔とハッチャケたプレイも必見だ。

このライヴにおけるジョージのギターソロはそのタイム感、ピッキングのタッチ、フレーズなどサンレコードの質感を見事に再現している。

Beatles For Saleが好きな人は必聴のライヴである。

That's All Right MamaやBlue Suede Shoes、Gone Gone Goneなどジョージがギターソロを弾く場面が多いだけでなく、

リンゴがシェイキーなドラムスを叩きながらのHoney Don't、エリックの豪放なブルースギター、カール パーキンスのロカビリーギターと、見所満載。

みんなが笑顔で楽しそうにプレイしているのがなによりすばらしい。

そしてカール パーキンスのあたたかな人柄が伝わってくる。

ビートルズのメンバー全員のヒーロー カール パーキンス。

ロックンロール、ロカビリーの魔法がかかった作品だ。

CD DVDセットで再リリースされているので映像と合わせて楽しめる。

メーカーの心意気も音楽的ですばらしい。

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おわりに

ジョージ ハリスンのアルバム、ライヴテイクを聴いておもうのは、やはりそのギターサウンドの素晴らしさ。

これは言うのは簡単だが、実際いいサウンドをつくるのは実力がないとできないことである。

ジョージのアルバムを聴くと、バンドとしてのサウンドは当然だが、なによりそのギターサウンドがジョージ ハリスンの音と呼ぶにふさわしい独立した魅力を放っている。

このサウンドがあった上でスライドギターがあり、メロディックな歌えるソロがあり、独特のコード進行とポップに陰るメロディが際立つ。

そして人と人をつなぐ人柄と人望、まわりのひとを笑顔にするユーモアがある。

バングラデシュコンサートの出演者はみなノーギャラで集まり、トラヴェリング ウィルベリーズはスター揃いでありながら、ひとつのグループとしてまとまったのはジョージだからこそだろう。

知れば知るほどその魅力の虜になるジョージ ハリスンである。

DARK HORSE YEARS BOX

ジョージのダークホースレーベル時代の作品を集めたボックスセット。画像クリックでHMVの商品ページに飛びます。

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アイランド以降のトム・ウェイツを好きになる方法。

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トム・ウェイツはキャリアも長く、ボブ・ディランエルヴィス・コステロなど多くのミュージシャンが憧れるレジェンドだが、ベストがあまりに少ない。オフィシャルでリリースされたベストは3枚のみ。

そのうちの2枚、70年代の曲を集めたAsylum Years、同じくAsylum期の曲を集めたUsed Songsはどちらも廃盤。

かと言ってオールタイムベストもリリースされないまま今日に至る。

おそらく本人がベスト盤を出すことに興味がないのだ。まあ文士型のひとなのでわからないでもない。

だからこそ今回とりあげるベストには意味がある。

残りの1枚がアイランドイヤーズをまとめたBeautiful Maladiesである。

これはなんと日本企画。

ベスト盤に消極的なウェイツがよく許可したものだ。

それもトム本人が選曲までしているのだから、日本側の担当者の熱意の賜物だろうか。

それともやるならしっかりとした作品に仕上げたいというウェイツの職人魂か。

どちらにしても単なる本人監修のベストとはワケがちがう仕上がりなのである。

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ポール・マッカートニー ジャンルで選べる名盤ガイド

ポール・マッカートニーのおすすめ名盤をピンポイントで知りたいひとのためのブログ。

ジャンルに分けて名盤をレコメンド。

手早く読めるポール・マッカートニーのアルバム・ガイド。

青字のタイトルをクリックするとタワーレコードの商品ページに飛びます。

英国ロック2選

TUG OF WAR  82年

ジョージ マーティン プロデュースによる大ヒット作。

静謐なサウンドにノーブルなメロディが最高の融和を見せる。

荘厳な表題曲、意表を突いた転調を聴かせるポップなTake It Away、英国ロックの手本のようなThe Pound Is Sinking、感動的なWonderlust、陽光を感じさせる暖かなEbony And Ivoryなど名曲揃い。

レノン死後のアルバムだけにひとりの人間として世界をみつめなおした姿も見られる。

表題曲やビッグヒットしたEbony And IVory はその代表的なものだ。

その一方で明るいBallroom DancingやファンキーなWhat's That You're Doingなどが含まれる最上級のロックアルバム。

エモーショナルなヴォーカルが聴けるマッカートニーのソロ屈指の名作だ。

英米1位

TUG OF WAR LP

 

LONDON TOWN   78年

こちらも落ち着いたサウンドだが、上の作品に見られる内省的質感ではなく、開放的な自由さを感じるところが魅力。

いかにも英国の香りただよう一曲目からハードなロックチューン、ポップなトラディショナル的ナンバーまで、どれもとてもいい曲でまとめられている。

このトラディショナル風のアコースティックナンバーが多いのが本作の特徴だ。

本作は楽曲のよさはもちろんだが、Backwards Travellerでの高音ヴォーカル、パンクの流れから来たとおぼしきI've Had Enoughでの強烈なシャウト、Name And Addressでのロカビリーヴォイスなどポールのロックシンガーとしての真骨頂を聴くことができる。

また潮風がかすめるGirlfriendでのファルセットヴォーカル、穏やかな空気を感じるI'm Carryingの優しい声などハードなヴォーカルとソフトなヴォーカルの対比が見られるなどアルバムとしてのバランスもとれている。

そして本作の魅力を決定付けている暖かくやわらかなシンセサイザーサウンド

心地よく、時に切ない音色がさわやかな風にのって運ばれてくる。

ポートレイトなアルバムジャケットとともに飽きの来ない名作だ。

ウイングス時代の作品。

英4位 米2位

 

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ビートルズのすごさをライヴ・アット・ザ・BBCで解説。

ビートルズのデビュー前のエピソードにはドラマがいっぱいだ。

母に教わったバンジョーのコードでロックンロールを歌うジョンが教会のバザーでポールと出会いバンドに誘う、ドイツ巡業に出るも極貧生活を経験、メンバーでありジョン レノンの友人だったスチュアート サトクリフの急逝、

オーディションにはひっかからず、成功を夢見る街のバンド。

ビートルズにときめきを感じるのはかれら自身がいつの時代にも存在する若さと希望だけを頼りに強烈に夢を見る若者たちのひとりだったからにほかならない。

かれらは音楽エリートでも優等生でもなんでもなく、レコード会社に門前払いされ、オーディションで蹴られたよくいるバンドのひとつだった。

そんなかれらがひょんなことからレコード契約をものにし、世界を変える。

まさに夢物語のようなはなしを現実に起こしたからこそビートルズはいまも世界を魅力する。

 

ビートルズの専任マネージャーとなったブライアン エプスタインがはじめてビートルズを観たときのエピソードは実に興味深い。

かれもまたひょんなことから地元のバンド、ビートルズを観に行くのだ。このときのかれらはレコード契約を持っておらず、デビューを目指していた地元バンドに過ぎなかった。

薄暗く、タバコの煙がもうもうと充満する薄汚いクラブで演奏するビートルズを観たときに、レコード店を経営するエプスタインは音楽的な魅力は感じなかったという。

ただ狭いステージで演奏しているメンバーのはじける若さとかれらに熱狂する若い観客の姿に魅了され、マネージャー就任のはなしを持ちかけるのだ。

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ビートルズ ベスト盤の選び方 赤盤・青盤・1の決定的な違い

2023年11月:「赤盤・青盤の新装版について」「はじめてビートルズを聴くなら」をページ下部に追記。

ビートルズのすばらしいところはいくつもあるわけだけれど、わたしが注目するのはベスト盤の少なさだ。これはなにを物語るのか。

あれほどのバンドであれば数年に一度新たなベスト盤を出すのが通例。

ローリングストーンズやビリー ジョエル、ボブ ディランなどがまさにそうであるし、それこそジョン レノンも発売されたベストは何枚も存在する。

ベスト盤が多いというのはそれだけ出すたびに売れるという証左であるし、時代ごとに新たなベストを出すことで若い世代にも聴く機会を提供することにもなるかもしれない。

 

一方で長く音楽ファンでいると、リリース情報が出たと沸き立てばまたベスト盤か、と思い曲目を見て前のベストとそう変わらない、と興味が薄れ、結果リマスター効果の違いが売りになるものの、果たしてそこまでのリマスターになっているのか疑問を覚え、なかなか素直に手が伸びない。

あとで買おうとしたころにはもう販売が終了しており、結局このバンドの入門にはこの1枚、といえるほどの決定的ベスト盤にはなりえなかったことが明確になる。そもそも決定的なベスト盤をつくるということは易々とできることではなく、ある期間を過ぎれば廃盤となるのは当然かもしれない。

またキャリアが長いミュージシャンになるとオールタイムベストが編纂されるようになるが、3枚組以上になることが多く、それはベスト盤というよりもはやアンソロジーだ。

はじめてそのバンドを聴いてみようとする人に3枚組はやや重い。

やはりベスト盤は最大2枚組までにしないと興醒めする。

選りすぐるからベスト盤なのであり、枚数を多くしてあれもこれもと詰め込むと無粋なのだ。

ベスト盤はあの曲も入っていればよかったのにという腹八分目が必要だ。

入っていない曲を聴くにはオリジナルアルバムなど他の作品を聴くことになり、そもそもベスト盤の大きな意義はそこにある。

あくまで扉なのだ。

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