休日の昼にコーヒーでも飲みながらいい音楽が聴きたいときってないだろうか?
そんなときに愛聴するアルバムがある。
ロック、ソウル、ジャズ、フュージョンが混じったオトナの名盤だ。
ビター&スウィートな70'sの香りがたまらない。
昼でも夜でもオールタイムで聴けるこの懐の深さは音楽好きにはほんとありがたい。
特に サンディ A ホーン「抱いて、ルパン」はシティポップファン必聴のメロウなナイトムードの名曲。
サンドラ ホーンといえば 「ラヴ スコール」だけれど、あわせて聴きたいミッドナイト ラヴソングだ。
アルバム全体ではブラスを効かせたテーマ曲からロマンティックな曲、ハードにうねるグルーヴが満載。
リズムセクションのファンクっぽさも格別。
そこにメロディアスなオーケストレーションが乗っかるんだからかなりプログレッシブ。
そして多くの曲にルパンやとっつぁん、次元、五右衛門、不二子のセリフが入っている。
これが実にユーモラスで軽妙洒脱。
モダンなカッコよさなのだ。
「流れ者にはオンナはいらねえ」
など名フレーズがいっぱい。
ルパン三世のサントラは数あれど、音楽ファンなら持っていたい一枚。
では内容を見ていこう。
このサントラは3枚のシリーズになっている。
それぞれ音源はリマスターされ、ブルースペックCD2という形態でのリリース。
ブルースペックCD2特有の柔らかなアナログ的サウンドである。
もちろん一般的なプレーヤーで再生できる。
ここで紹介しているのはシリーズの1枚目に当たるもの。
歌入りの曲もあるけれどほとんどがインスト曲だ。
インストはちょっと・・・というひとこそ聴いてみてほしい。
おなじみの「ルパン三世のテーマ」から「殺し屋に紅薔薇を」、「デンジャラス・ゾーン」などはアップテンポで聴きやすいのでこのあたりから聴いてみるのもいい。
特に「殺し屋に紅薔薇を」はこのアルバムのハイライト。
ジャジーでハードボイルド。クールでカッコいいのにどこかユーモラス。
まさにアニメ「ルパン三世」の世界そのもののスタイリッシュな名曲だ。
その他にもたとえば「ルパン三世のテーマ」のオープニングには銃声が二回放たれるのだけれど、これが最初は右チャンネルから、二発目は左チャンネルから、と銭形とルパンの撃ち合いになっているのがわかるようになっている。
こうした細かな演出がアニメのサントラとしての立ち位置をより明確にしているし、それは映画的とも取れる演出だ。
だから映画好きなひとにもこのサントラはおすすめと言える。
センチメンタルでロンサムな「愛のシルエット」には胸がときめき、
ハンフリー・ボガートになった気分になるだろう。
この「愛のシルエット」は70'sのブラックスプライテーションのサントラ的にも思える仕上がり。
すなわちソロ以降のカーティス・メイフィールドの楽曲からの影響を感じ取れる。
また大野雄二の作品によく見受けられるダニー・ハサウェイ的な世界観もある。
ブラックスプライテーションの舞台をルパン三世に置き換えたような質感でこのミックス感が一度ハマると抜け出せない魅力となっている。
はたまた異国情緒たっぷりのアップテンポチューン「サンセット・フライト」はヨーロピアンな香りにサンバが融合し、
ハードボイルドな「マグナム・ダンス〜ロンリー・フォー・ザ・ロード」に夕焼けが見えてくる「愛のテーマ」には男の色気が溢れる。
総じてロマンティシズムがどの曲にも通底している。
この「愛のテーマ」には水木一郎のヴォーカル入りのバージョンがあるが、ここではインストで収録。
哀愁のハーモニカの音色からギターソロ、落日のストリングスにつながる展開に涙するこれも必聴のトラック。
歌入りの曲は2曲で前述の名曲「抱いて、ルパン」と「ラヴィン・ユー(ラッキー)」。
前者はメロディの良さが絶品のナイトムードの名曲。
声の可愛らしさと夜風を感じるサウンドが最高だ。
とろけるようなキーボードのサウンド、女性シンガーによるバックコーラス、艶っぽいサックスなど大野雄二の傑作と呼べる一曲。
この70'sの香りが潮風に運ばれてやってくる感がたまらない。
後者はポップな陽光に切ないメロディが光る洗練されたソウル・ポップでこれも出色の出来。
アルバム通してどの曲もアニメの世界にぴったりなのがすばらしい。
けれどそこから切り離して1枚のアルバムとして聴くこともできるくらい完成度が高い。
そしてプレイヤーたちの卓抜した演奏も聴きどころ。
ギターはもちろんファンキーに動きまくるベースとグルーヴ全開のドラムスは思わず体が動いてしまう楽しさと躍動感だ。
そして大野雄二の特徴的なホーンの使い方。
ロマンティシズムに溢れたストリングス。
ルパンファンしか聴かないのはもったいない名サントラだ。
それにしても現代のヒーローにはルパンたちのようなシブさを持ったキャラクターがいない。
カッコいい、カワイイはあふれているけれど、
そのこどもっぽさと若さばかりが強調される。
それは一面的で奥行きがない。
ルパン一味と銭形にはコミカルなだけでなく、シブさがある。
時に狡猾で、互いに利用し、互いに出し抜こうとしている。
常に敵対しているのに互いにつながりがある。
ある種の魅力的な人間関係とも言えるだろう。
はなればなれになっても、またどこかで出会う。
事が済めば、またそれぞれに散っていく。
明確な別れのことばはない。
互いのつながりを感じるアニメーション。
だからこそ、ルパンたちはいまの時代もずっと愛されるのだろう。
ルパンの曲を聴くと、ルパン一味の姿と必ずそこに絡む銭形の姿が浮かぶ。
そう、我々はつながっているのだ。
いやでもどこかでだれかとつながっている。
「殺し屋に紅薔薇を」の冒頭でルパン、次元、五右衛門が三人揃って爆笑する部分がある。
一匹狼だってときにはだれかと手を組むのだ。
ひとときの友人となり、ともに笑い、そして去っていくのだ。
同じ目的のために動き、仲間が窮地に陥れば救いに行く。
彼らは泥棒とそれを幇助する人間の集まりだ。
けれど人間味に溢れている。
だから憧れる部分があるし、彼らにはある種のヒーロー的側面がある。
それを感じることができるサントラだ。
これぞ名盤!