他の人が書かない洋楽レビュー

音楽雑誌を見ても自分の知りたい内容が載っていないので、自分で書いてみました。

ジョン・レノン | マインドゲームスをイマジンに解説。

マインド・ゲームス、邦題ヌートピア宣言は英13位、米で9位を記録したがいささか地味な印象で語られることが多い。

個人としては初めて聴いたジョン レノンのアルバムが本作であり、深い思い入れがある。

けれど聴いた際の印象はヒット曲然とした楽曲もなく地味なもので、大ヒットしなかったアルバムという色合いをつよく感じた。
Mind Gamesがシングルとしても米英ともにTop10に入っていないことにも溜飲を下げた。
ジョンの全ディスコグラフィーを聴いた後に本作の良さを見つけたようにおもう。
 
一方ジョンのファンにはこのアルバムが好きなひとが多いという印象もある。
 
またジョンのソロアルバムの中でメロディのよさという点ではもっとも優れた作品だと感じている。
参加した演奏者のアレンジ力も加わってのことではあるが。
ベースにゴードン エドワーズ
ギターにデヴィッド スピノザ
キーボードにケン アッシャー
ドラムスにジム ケルトナー(一部でリック マロッタ)
サクスフォーンにマイケル ブレッカー
こうした面々による演奏はそれまでのジョンのサウンドより洗練されたものになっている。
 
そんな立ち位置のむずかしいアルバム「Mind Games」を真正面ではなく、すこし違った角度からとらえてみようとするのが本記事の狙うところである。

クリス・レア | ダンシング・ウィズ・ストレンジャーズとポール・サイモン

Dancing With Strangers / Chris Rea  1987

今回はクリス レア1987年のアルバム「ダンシング ウィズ ストレンジャーズ」のアルバムガイド。

2019年に出たリマスター盤についてもふれる。

本盤は世界的ヒットとなったオン ザ ビーチに続いて発表されたアルバムであり、全英2位を記録し、長くチャートにとどまるロングヒットとなった。

シングルとしても、

Let’s Dance 英12位、ニュージーランド2位、米81位(モータウンの社長ベリー ゴーディが気に入ったことからモータウン配給で米国でも発売された。)

Loving You Again 英47位、
Joys Of Christmas 英67位、
Que Sere ニュージーランド36位、ベルギー36位
などヒットを記録している。

 

リマスター盤は2枚組。

ディスク1
1.Joys of Christmas
2.I Can't Dance to That
3.Windy Town
4.Gonna Buy a Hat
5.Curse of the Traveller
6.Let's Dance
7.Que Sera
8.Josie's Tune
9.Loving You Again
10.That Girl of Mine
11.September Blue

ディスク2
1.Yes I Do (B Side)
2.Que Sera (Single Version, Re-Recorded '88)
3.Se Sequi (B Side)
4.I'm Taking the Day Out (B Side)
5.I Can Hear Your Heartbeat (Extended Mix)
6.Loving You Again (Live)
7.Danielle's Breakfast (12" B Side)
8.On the Beach (Summer '88)
9.Rudolph's Rotor Arm (Previously unreleased)
10.Smile (The Christmas EP)
11.Don't Care Anymore (B Side)
12.Que Sera (Down Under Mix)
13.Donahue's Broken Wheel (B Side)
14.Let's Dance (Remix)
15.Josephine (French Re-recorded, B Side)
16.Footsteps in the Snow (The Christmas EP)
17.Driving Home for Christmas (Second version, from 'New Light Through Old Windows')

 

 

クリス本人が「基本的に自分のレコードは聴かないが、このアルバムは別だ。ぼくらが燃えているのがわかるからだ。」とあるように本人も気に入っている作品だ。

 

本作では前作オン ザ ビーチの洗練された作風から大きくはなれたケルト音楽に代表されるアイリッシュトラッド的サウンド、またはブルーズ的なリードギターが目立つ。

それらに80年代のキーボードサウンドを混ぜて現代的にしたことがヒットの要因だろう。

 

 

トラッドは彼らにとって身近なものなのだろうが、本作でアイルランドの伝統音楽の要素を全面に取り入れたのはなぜなのか。

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ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース ベスト盤を買うなら絶対これ。

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Huey Lewis & The News /Huey Lewis & The News  1996

実はこれがヒューイ・ルイス&ザ・ ニュースのベスト盤の中で最高音質。

数ある彼らのベスト盤の中でもっとも見過ごされているが、これがかれらのベスト盤のなかで一番いい音。

そしてたんなるベスト盤ではない。

曲目、音質ともに現状このベスト盤が最良なのだ。

1. The Heart of Rock & Roll - 5:04 
2. Heart and Soul - 4:12 

3. Doing It All for My Baby - 3:37 
4. Do You Believe in Love - 3:28 
5. Trouble in Paradise - 4:32
6. The Power of Love [From Back to the Future] - 3:54 
7. If This Is It - 3:52 
8. Bad Is Bad - 3:47
9. Workin' for a Livin' - 2:39 
10. It's Alright - 3:04 
11. Stuck with You - 4:26 
12. I Want a New Drug - 4:45 
13. 100 Years from Now - 3:46
14. So Little Kindness - 4:14
15. 'Til the Day After - 3:27
16. When the Time Has Come - 4:26

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ヒューイ・ルイス&ザ ニュース | SPORTS・アルバムガイド

Sports / Huey Lewis&The News  1983

ヒューイ ルイス&ザ ニュースといえば、バック トゥ ザ フューチャーの主題歌2曲と83年の大ヒットアルバムである本盤がよく知られている。

ただ、このアルバムからシングルヒットを連発したた収録曲のほぼ全部がベスト盤に入っている。

だからベスト盤から聴いてしまうと、購入があとまわしになってしまうアルバム、それが「SPORTS」なだ。

 

 そこでヒューイ ルイス&ザ ニュースに興味があるひとはまず「SPORTS」から聴くことをオススメする。

大ヒットアルバムであるし、この曲順ならではの流れもある。

これを聴いてからベスト盤やほかのアルバムに行くのがもっとも選択肢を増やす順序のようにおもう。

実際 ベスト盤だけしか聴かないのはもったいないバンドなのだから。 


80年代ロックを代表する名盤SPORTS

では、「SPORTS」について書いていこう。

取り上げるのは2013年リマスター2枚組。

発売30周年リマスターのことである。

CD1がオリジナルアルバムのリマスター、

CD2がオリジナルアルバム収録曲のライヴテイクを集めたLIVE SPORTSという題目になっている。

以下はCD1 オリジナルアルバムの曲目。

 

Sports Track Listing:

  1. The Heart of Rock & Roll
  2. Heart And Soul
  3. Bad is Bad
  4. I Want A New Drug
  5. Walking On A Thin Line
  6. Finally Found A Home
  7. If This Is It
  8. You Crack Me Up
  9. Honky Tonk Blues

このアルバムは全9曲中、5曲がシングルヒットした特大ヒットアルバム。

アルバムとしても全米1位に登りつめ、その年の年間売上アルバム2位を記録した彼らの出世作として世界的に知られる作品だ。

マイケル・ジャクソンのスリラーがなければ年間アルバム1位だったのは言うまでもない。

前述の通りアルバムからは5曲がシングルカットされ①②④⑦がトップ10入り、残り1曲⑤もトップ20入りしたのだった。

 

アメリカの古めかしい音楽スタイルにモダンなエッセンスと当時の先端テクノロジーをハイブリッドした点が画期的。

ロックンロール、ソウル、リズム&ブルーズ、

ドゥーワップなど50年代のアメリカンミュージックに80'sなサウンドやビートがハネる。

今となってはなんてことはないけれど、かれらはもっとも早い時期にそうした音楽スタイルを完成させた先駆と言える。

実際すごい実績を持つバンドであり、数多のゴールドディスク、プラチナムを獲得している。

ライヴでは高い演奏力とパフォーマンスで下積みの頃から評判だった。

そうしたライヴパフォーマンスのアツさとスタジオワークの緻密さがテクノロジーが発展していた時代のなかでガッチリかみあった奇跡的な1枚。

「SPORTS」は世間がおもう以上にすごいアルバムなのだ。

 このアルバムが硬派な印象があるのは、ポップな中にブルースっぽさがうまく溶け込んでいるからだろう。

その点で他の80年代ロックの中でも異色と言える。

このブルースっぽさがアルバム全体を引き締めてロック色を明確なものにし、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのサウンドを決定的なものにしている。

 

収録された楽曲群は幅が広い。

バンドのオリジナル作品に外部ソングライターの曲②⑤とカヴァー曲⑨を混じえたバランス感覚もオールドスクールで燻し銀なカッコ良さ。

ロックンロールナンバー①から妖しくグリッティなニューウェーブポップ②、

気怠くレイジーなブルースにドゥーワップを絡めた③、

ギターリフとホーンを活かしたバブルガムな④、

ギターを活かしたアメリカンロックな⑤⑥、

ドゥーワップな名曲⑦、

テクノなロックンロール⑧、

ハンク・ウィリアムスの名曲をパプロックに改変した⑨など。

どれもポップとクールネスの混ざり具合が最高の配合だ。

アメリカンロックのさまざまな形を1枚のアルバムの中でこれほど無理なく、それもポップに聴かせ、シングルヒット連発となった作品は稀。

そして演奏、コーラスのうまさにも気付かされるだろう。

サックス、ギターのジョニー・コーラとギターのクリス・ヘイズ、キーボードのショーン・ホッパー、ドラムスのビル・ギブソンによる4声のコーラスはメロディックで、ライブでも見事に再現される。それは本盤の2枚目のCDで確認できる。

演奏面は全員が持ち場を確立しており、スタープレイヤーがいないこのバンドの鉄壁の演奏力を感じさせてくれる。

ザ・カーズもそうだが、両バンドともキーボードサウンドがバンドの核になっているのがおもしろい。

このアルバムでもショーンのキーボードがバンドのカラーになっているのでその点も注目だ。

 

80年代ロックはロクなものがないと一昔前の音楽評論家たちはお決まりのように言っていたが、それは間違いだ。

80年代ロックの名盤を聴けばよくわかる。

このSPORTSもまさにそうした最上級のロックアルバムである。

 

 

リマスターの音質

2006年に出たリマスターベスト盤はオールタイムベストではある反面、シングルエディットが多く収録されており、なにより音質が高音シャキシャキで音圧をガツンと上げました!という当時の流行りの音。

これは好みが分かれるところ。

キンキンした高音で、音圧は強いのに、なんだか迫力がごまかしっぽい。

 

一方 「SPORTS」2013リマスターでは丸みがある音で、音圧もふっくらと強く、各楽器も鮮明。

原音に忠実に音を磨いたとても良い音に仕上がっている。

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ルパン三世 | ビター&スウィートな70’Sロック名盤

休日の昼にコーヒーでも飲みながらいい音楽が聴きたいときってないだろうか?

そんなときに愛聴するアルバムがある。

それがこのルパン三世 オリジナル サウンド トラック。

 ロック、ソウル、ジャズ、フュージョンが混じったオトナの名盤だ。

ビター&スウィートな70'sの香りがたまらない。

昼でも夜でもオールタイムで聴けるこの懐の深さは音楽好きにはほんとありがたい。

特に サンディ A ホーン「抱いて、ルパン」はティポップファン必聴のメロウなナイトムードの名曲。

サンドラ ホーンといえば 「ラヴ スコール」だけれど、あわせて聴きたいミッドナイト ラヴソングだ。

 アルバム全体ではブラスを効かせたテーマ曲からロマンティックな曲、ハードにうねるグルーヴが満載。

リズムセクションのファンクっぽさも格別。

そこにメロディアスなオーケストレーションが乗っかるんだからかなりプログレッシブ。

そして多くの曲にルパンやとっつぁん、次元、五右衛門、不二子のセリフが入っている。

これが実にユーモラスで軽妙洒脱。

モダンなカッコよさなのだ。

 もちろん声は山田康雄納谷悟朗小林清志らの面々である。

「流れ者にはオンナはいらねえ」

など名フレーズがいっぱい。

ルパン三世のサントラは数あれど、音楽ファンなら持っていたい一枚。

では内容を見ていこう。

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ボブ・ディランの凄さがわかる必聴の2枚。

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ボブ ディランは歌わなくなった。なにかしらの理由で歌わなくなった。特にライヴにおいては。

ラップでも語りでもない半端なボイス パフォーマンスしかしなくなった。それでも熱烈なファンは喝采だ。

ところがBlowin’ In The Wind 2021 recorded ヴァージョンではまるで60年代の頃のような歌声をきかせている。

つまりライヴにおけるあのパフォーマンスは意図したものだということだ。

 

いつ頃からだろう。

ボブがライヴでメロディをうたわなくなったのは。

2010年からだったろうか。

それは意図して声をつぶし、言葉を吐き出すもので がなった語りのようだった。

素直な発声でうたえば以前のような声もでるはずだと確信していただけに、なぜこんなヴォーカルを標榜するのだろうと疑問でしようがなかった。

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リンゴ・スター 名盤ヴァーティカル・マンとリンゴのドラミング

70年代半ばから80年代にかけて長く低迷したリンゴ スター。

アルバム、シングルとも売れなくなり、ライヴ活動も行わなかったかれには策がなくってしまう。
さらにはアルコール依存もひどくなり、 まともに演奏きなくなってしまったのだった。
ところが元ビートルズには底知れぬ自力があることをその後リンゴは証明ることになる。

施設にはいり、アルコール依存を克服したリンゴは1989年に自身を看板とたものとては初のライヴ活動を開始。

これがいまもつづくリンゴ スター アンド ヒズ オールスターバンドのはじまり。
もはやネヴァーエンディング ツアーである。
 
そして92年には名盤Time Takes Timeリリースして、その後もツアーに出るなど、ソロ ミュージシャンとして存在感を強くしていく。
そんな中、ビートルズ アンソロジー プロジェクトが世に放たれ、世界的なビートルズブームが巻き起こる・・・。
 
リンゴ スターの名作レビュー第2弾はそんなビートルズブームが熱を帯び1998年に発表されたVertical Man.
マーキュリーからリリースされ、米61位を記録した作品だ。
 
VERTICAL MANはビートルズでラトルズな名盤 
それまでの低迷を考えれば充実のセールスにおもえるが、マーキュリーとしては販売予測下回ったらしい。豪華ゲストが多数参加しているから、予算もかかったのかもしれない。
Vertical Manから間髪入れずに突如リリースされたライヴ アルバムVH1 Story Tellersの背景も、Vertical Man売上が予測を下回っことのテコ入れだったというはなしもある。
ライヴ盤にはリンゴ ソロ初期のヒット曲、ビートルズナンバーも含んでいるから、ある程度売れると見込んでのリリースだろう。
結果論だが、ビートルズ再ブームにのって大きく当てようとしたマーキュリーの販売戦によって相応の結果にはなった一方、ブームの中で売れた反動で忘れられるのも早かったのではないかとおもう。
内容に反して埋もれてしまった感がつよいのだ。
それだけに、何年も前だけれど、日ユニバーサルからリンゴ スター リマスターシリーズとして 、本作がラインナップされていたのは、このアルバム良さが正しく届けられる機会となり得たはだった。当然リマスターの仕上がりにもよるけれど。
結局、このリマスターシリーズは中止され、それ以降も本作のリマスター盤CDやリマスターレコード出ていないはずだ。
中止の理由はわかりかねるが、オフィシャルから却下されたか、注文数がふるわなかったか。リマスターはいつになることやら・・・。
ということで隠れた名盤のうちに聴いておこう。
なんといっても本作は73年の名作RINGOにならぶ傑作なのだら。
 
前作Time Takes Timeでは意図的なあとノリドラミングを披露したリンゴ。
本作ではこれぞリンゴ スターなタイム感プレイをバシッとキメている。
そしてリンゴといえば忘れてはいけないハイハット サウンドの魅力。
かわらずシェイキーでスウィンギーなスティックさばきで曲ごとに微妙に音を変えハイハットだ。
もうひとつ、注目するのはスネアの音。ヌケのいい木の音で、これは現在も聴くことができるリンゴのスネア サウンドこのアルバム以降、スネアの音は一貫してこのヌケのいい木の音なのだ。
④でそれがよくわかるとおもう。
1.ワン
2.ホワット・イン・ザ...ワールド
3.マインドフィールド
4.キング・オブ・ブロークン・ハーツ
5.ラヴ・ミー・ドゥ
6.ヴァーティカル・マン
7.ドリフト・アウェイ
8.アイ・ウォズ・ウォーキン
9.ラ・ディ・ダ
10.ウィズアウト・アンダースタンディング
11.アイル・ビー・ファイン・エニィホエア
12.パペット
13.アイム・ユアーズ
 
そして攻撃的なドラミング、速いパッセージフィルが多いのもこのアルバムの特徴。
リンゴのドラムをフィーチャーする意図が明確になっている。
①②③⑥⑨⑩でそうしたプレイが聴ける。なかでも⑥のブレイクやエンディングでは乱れ打ちが聴けるのでこれは必聴。
⑨の長いリフレインでもハードなフィルを発。Hey Judeのリフレインを彷彿とさせる プレイ。
それでいてリズム感が乱れないこのキープ力。
ドラマーはキープ力あってのフィルなのだ。
 
そろえられた楽曲もクオリティが高い。
Time Takes Timeでは他のソングライターによる楽曲がほとんどだったが、本作ではリンゴとバンドメンバーとの共作曲に重点を置いているのが違いだ。
 
Vertical Manではビートルズっぽい曲も多い。が、真っ向からビートルズにはしておらず、あくまでパロディにしている点がユニーク。
このパロディの角度が鋭角的で、ひねってあったり、合わせ技にしていたり。
絶妙に正攻法からハズしていく感じがラトルズのそれなのである。
それを本家リンゴ スターがやっているのがビートルズ直系バンドとはワケがちがう点なのだ。
なぜならビートルズフォロワーがどんなにリンゴっぽいサウンドまねてもリンゴのタイム感はコピーできないらだ。
だからこのアルバムは まるでリンゴ ミーツ ラトルズといえる仕上がり。
 ⑥なんてI Am The Walrus風いうり、ジョージのWhen We Was Fabをパロディにしたような遠回り感があったり。
⑤に至ってはオリジナルのシャッフルを封じて、アメリカン ロックンロールに改変してたり。ブレイクではここでもリンゴのフィルが炸裂。
Love Me Doはおれのドラムのほうがいいだろう!?と言わんばかり。
ちなみに「VH1 Story Tellers」 ではさらにドライヴしたロックンロールになっているので、これも必聴だ。
サイケなのかポップなのかわからない⑩ではリンゴのドラムがGet Backだったり、ソリッドなロック ドラムだったり。
そこにブライアン ウィルソンのバックコースが飛び込んでくるパラレルワールドみたいな展開。
そもそもこの曲にブライアンが参加している理由も、聴けばすぐわかるのだが、なんともユーモアがある。
 
②③もビートルズな曲ではないけれど、そこにビートルズっぽい要素を散りばめてフェイクする離れわざ。
すなわちメロディックスライドギターをれ、そこにジェリーフィッシュコーラスを加える。
メロディ性のあるアルペジオフィーチャーしたり、インド楽器をワンポイントで使用する。
これらがビートルズな曲に聴かせるためによく使われる手法の代表的なもの。
なぜメロディ性のあるスライドをいれるとビートルズっぽく感じるのだろう。
これはアンソロジー プロジェクトでの再結成シングルFree As A Birdジョージがスライド ギターを弾いたことが決定的な要因だ。
ここでのジョージのスライドはビートルズ曲として見事に溶け込んでいる。
これこそがアンソロジープロジェクトが生んだ新たなビートルズ
ジョージのスライドがビートルズつながった瞬間だ。
以降、ビートルズっぽい曲にはジョージ風のスライドを入れるというひとつの方程式が成立するが、それがVertical Manで実践されているのだ。
ただアンソロジー以前にもジョージ風のスライドをポップな曲にのせるやりかたあった。
それはポップな曲にジョージ風のスライドが合うということが70年代のジョージ自身によって証明されたことに端を発する。
My Sweet LordやGive Me Loveでのジョージのスライドはそれほど発明的だったのである。
以降、ビートルズ風の曲、ポップな曲、レゲエなどさまざまなジャンルのミュージシャンのレコードにジョージ風のスライドが足されることになる。
それらはビートルズっぽくするためというより、ジョージの発明が伝搬した結果だ。
事実、それによってビートルズっぽくはなっていない。
あくまで特徴的な音色でのサウンドメイクにとどまっている。

Boz Scaggs  Silk Degrees  1976

Love Me Tomorrowの間奏でジョージ ハリスンなスライドが聴ける。
 
 
Silver
Wham Bam Shang-A-Lang  1976
イントロ、間奏でもろにジョージ ハリスンを模したスライド ギターが登場。
   
ポップミュージックにメロディックスライドをフィーチャーする手法を世に広めたのはジョージ ハリスンの大きな功績なのだと実感。
 
ではVertical Manが特別なわけは何か。
ビートルズリンゴが演奏すると、その独特のタイム感からビートルズなフィールが出るわけで、そこにジョージっぽいスライドをのせるとアンソロジーでのビートルズなスライドリンクされ、そのビートルズっぽさが別格にるのだ。
 
だから②③のような曲にもビートルズなフィールを抽出する。ラトルズ的にフェイクしているとはいえ、この差はデカい。
架空のアンソロジー セッションのようなきを感じることができる。
おなじスライド手法を使っているのにビートルズっぽさがあまり感じられないジェリーフィッシュのI NEED LOVEと本作の②を聴き比べると、リンゴのドラムビートルズ サウンドの大きな要素だったことが明瞭である。
ジョージ ハリスン風のスライドも
I Need Love と②では趣きがまったく異なる。前者は表面的なジョージ ハリスンスライドにとどまっている。
I Need Loveはマニアが好みそうないい曲であることに変わりはないが。
ジェリーフィッシュ I Need Love収録
Spilt Milk Dlx Edition 
ポール マッカートニー、ビーチボーイズ、クイーンどか影響をつめこんだセカンド アルバム。
ニルヴァーナっぽいサウンド聴けるど、当時の米国音楽シーンも反映してる。 
1993年発表
 
そんなラトルズ的アルバムにポールとジョーがそろって参加している。
特に④では、ジョージのFree As A Birdスライドとリンゴのドラムのコンビネーションを聴くことができる。
 ポールも参加曲での自身のベースやバックヴォーカルもまるでビートルズ初期の頃のようなハツラツさ。
 アンソロジーセッションを通り越えた後だからこそのビートルズ感が漲っている。
以前のかれらの共演には、ここまでのビートルズ フィールは感じられなかった。
アンソロジーはメンバーそれぞれに自身がビートルズだったことを認め、愛おしむ機会となったのかもしれない。
 
なおVertical Manは2曲の決定的な名曲が入っている強み。
それは①と⑨。
ビートルズがすきなひとは、このアルバム全体を聴かずともの2曲だけ聴くことすすめたい。
①は60年代のマージービートをおもわせるうな甘く、すこしほろ苦いメロディで快活な演奏なのに、ちょっぴりさみしさがにじむ。
演奏面ではリンゴのドラムも素晴らしく、随所に決めた小気味よいフィルが秀逸。間奏に入る手前でブレイクがあり、そのブレイクを打ち破って切り込んでくるフィルの音、タイミングがリンゴスターそのもの。
 Drive My Carのイントロをおもいださせるプレイだ。
⑨は一聴すると気楽な応援歌のようだが、吟味すると歌詞がリンゴの人生訓のようにえる。エンディングの大合唱は感動モノ。
先述したアウトロのHey Judeなドラミングもすばらしい。
リンゴのタイム感はあのときから変わっていないことに気付かされる。
 
本作のプロデュースはマーク ハドソンとリンゴ。
ここから数作マークとの共同制作がくことなるが、どれも少々情報過多ではある。
これはビートルズファンだったマークの意向だと推測するが、バラエティ豊かなアルバムにしようとあれもこれもとつめこみすぎてしまった。
あと何曲かカットしていれば、アルバムのまとまりがよくなって、印象はまたちがったものになっていただろうに、そこが惜しい。
一方でマーク ハドソンのよかった面としては、
アンソロジーの波に乗りビートルズアルバムに先導したこと、
ポップなロックンロール アルバムとしてうまく仕上げたこと、
グルーヴィーにうねるベースを演奏し、楽曲に魅力をそえたこと、などだろう。
見過ごされているけれど、このベースはとてもいい演奏だ。
 
総論
本作はすこしとっ散らかった感があるとはいえ、まちがいなく「RINGO」に比肩しうる傑作。
リンゴはジョンな曲、ポールっぽい曲、ジョージ風な曲、どれにでも個性がハマる。 
自身のドラムを主体に置くことで、 4つのビートルズフォーマットがつくれてしまう。
これがサイドマン リンゴの絶対的強みなのだ。
 
そうしたリンゴの資質を活かしたVertical Manはビートルズのいろんな要素、そこから派生する広範な音楽趣味がごちゃまぜ。
 
ポップなのに混沌としていて、アヴァンギャルドなのにキャッチーなロックンロール アルバム、というとんでもない佇まい。
 
ビートルズ風のサウンドを狙ったよくある作品とは一線を画す本家ならではの芯を喰った仕上がりだ。
 
これからのビートルズ世代に大きな影響を与えるであろう1枚。

 

 
おわり